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その後も少しもめたが、結局最初の台本どおりキスシーンなしで物語を進める事になり、俺はホッとした。
数日たち、マリノからメールがあり、先日のマネージャーの失礼な態度を詫び、そして、それ以降は内容と気持ちを切り替えるような派手な絵文字つきの文章が続いていた。
1週間前にとうとう念願の20歳になりました!
お酒を飲んでみたいし、最高のお祝いもしてほしい、約束してたよね、ねっ?
強引の1歩手前の文面を絵文字が中和している雰囲気に思わず苦笑した。マリノらしい。
彼女の都合のいい日程と2人だとまずいので俺の友達を誰か連れて行くという返信を送ったら今週の木曜の夜だったらいつでもいいとすぐに返事が返ってきた。
俺の予定も今週中なら夜は空いていた。じゃあ、いい店決めとくよ、とマリノに送信したその直後に今度は美佳からメールが来た。
今日一日の出来事が書かれていた。
いつもなら温かい気持ちでそれを読むが、今日は少し違った。心が美佳を求めていた。マリノのまっすぐな気持ちに刺激されたのかもしれない。
内容には全くコメントせず、ただ「会いたい」とだけ返信した。
それ以降のメールは返ってこなかった。
最初のメール以来、何かが進展したのかというとそうでもなかった。あの冬の日から何も変わっていない。どこにいるのかも、何をしているのかも、メール以外では伝わってこない。問いかけてもはぐらかされる。会うこともかなわない。
このメールの相手は本当に美佳なのか、という思いがよぎったが、すぐに打ち消す。美佳しか知らないことをメールで書いていたではないか。
違和感を押さえ込むのは真実ではなく、これが美佳であってほしいという願いだけだということに俺は薄々気がつき始めていた。




