8
社長はもちろん、他の幹部たちの評価も納得のいくものだったらしく、オレはオーデションに合格して『KIRIO』のヴォーカルとしてデビューしたんだ。
『KIRIO』で活躍して一応の成功を収めたとしても、大勢の人たちが賞賛してくれても、オレは自分のことを汚れた人間で、いつまた捨てられるかもしれないという焦りにも似たものを感じるんだ。怖いんだ。だから……』
「アサト」
アサトの深みにはまっていく思いを断ち切るように俺は強い口調で名前を呼んだ。
「俺はお前がデビューする前から知ってるけど、一度も汚れたヤツと思ったことないぞ?」
アサトと出会った頃、俺はまだデビューしたばかりで、事務所の社長同士が仲がいいせいか、よくうちの社長に用事を頼まれてアサトの事務所にも頻繁に出入りしていた。
アサトの第一印象は誰もが心奪われそうな美しい少年。
しかし、それ以上に少年らしくない暗い眼が気になって、どうかしたのかな?と思いながら挨拶したのを覚えている。
そういえば、その時、お金持ちそうな女性も一緒にいたな。
「大抵の人は、値踏みするか好奇の目でオレを見るんだ。でも、カズキはオレに普通だった。一番最初もいたわるような優しい笑顔を見せてくれたの、今でも覚えてる」
伏せていた目を上げてこちらを見たアサトの表情は心なしか力がなかった。
「俺は、アサトのこと弟みたいに大事に思ってるよ。気が合うから一緒にツルんでるんだし、お前の過去がどうであろうと、俺は気にしない。大事なのは『今』だろう?」
一体、どうしたんだ?そう目で問いかけるとアサトは淡く笑って目を伏せた。
「そうだね、大事なのは今だから」
「あまり細かく考えすぎるなよ? どう生きたかは大事なことだけど、どう生きるかのほうが、もっと大事なんだから」
ほほえみながらもアサトの不安な瞳の色は消えない。
会話が途切れて夜の深さに気がついた。
時間は夜中の2時を回ろうとしていた。




