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家に着いたら、携帯のメール着信音が鳴った。
見てみると小湊マリノからのメールだった。
今日は俺が食事をおごったので、そのお礼と今からまた収録だという内容だった。
カラフルな絵文字を見ながら、女の人ってメール好きだよなと思い、少し迷った後、お疲れ様、がんばれよ、と返事をした。
5分しないうちにまたメールの着信音が鳴り、随分暇なんだな、とチェックしようと携帯を開いたら見慣れないアドレスで、誰だろう、と思い本文を見て目を見開いた。
『カズキ、お久しぶりです。
お元気ですか?
1年半ぶりぐらいかしら?』
文字だけのシンプルなメール。
『1年半』というごく身近な人間にしか特別な意味が汲み取れないキーワード。
心臓が大きな音を立てて暴れていた。
『誰?』
震えそうになる指でやっと返事を打ち返し、携帯を持ったまま動けないでいるとすぐに返事が来た。
『美佳です』
やっぱり、と思ったが、誰か他人がなりすましているのではないかという疑問もまだあった。
『久しぶりだな、元気か?』
『元気よ、カズキは?』
『俺は相変わらずだよ』
『うん、テレビでよく見てる』
そんなやりとりの後、俺はひとつカマをかけてみた。
『あの帽子被っている人みると美佳を思い出すよ。
なんだっけ?あれ。今でも愛用してるんだろ?』
もし、これで違う答えが返ってきたら別人だ。
でも、ピッタリだったら……。
しばらくして、返信がきた。
『チューリップハットね。
あれ、東京に置いて来ちゃって手元にないの。
あと、コーヒーミルもそっちに忘れてる。
カズキが預かってくれてるって、聞いてる。悪いわね』
「……」
俺と美佳と風来館のごく限られた人間しか知らない情報。
(本当に、美佳なのか……?)
真夏の深夜。
不思議な夢を見ているようで、その場から長い時間動けないでいた。




