はじまりの実験 9
赤ん坊の面倒をみる者も、食事を与える者もいない。
いないなら連れてくればいい!
というわけで、畑仕事を中断して、小屋のまわりを探してみたのだけど・・・・・・
よく考えてみれば、この場所は魔女の森の中。
人間たちは、恐れて近寄ってこない。当然、人間の女を捕まえて、小屋に連れて行くなんて・・・・・・
オイラたちは、畑仕事を中断して、小一時間ほど森をさまよったあげく、そんな当たり前のことに気づいた。
「あはは。そりゃ、一生懸命探し回っても、誰一人見つからないわけだ、はっはっはー」
照れ隠しの馬鹿笑いをしたりして。
とはいえ、馬鹿笑いしたところで、なにか事態が解決するというわけでもなく・・・・・・
オイラたちが小屋へもどってくると、赤ん坊が、入り口のドアを一生懸命開けようと努力していた。
でも、ドア伝いに立ち上がったところで、ノブにまでは手が届かない。
届いたところで、ドアを押したり、引っ張ったりもできない・・・・・・
赤ん坊、顔中を汗だらけにして、悪戦苦闘していた。
オイラがドアを開いて、中へ入ろうとしたときには、ちょうど、伸び上がって、ドアのノブに取り付こうとしていた最中みたいで。
ギィィィイイイ~~~バタン!
オイラの目の前を黒い影が横切り、足元に倒れこんだ。かえるが地面に叩きつけられたみたいに。
「お、おい、大丈夫か?」
オイラの声はもちろん聞こえないけど、鼻をスリスリ。
「おぎゃーーー! おぎゃーー! おぎゃーーーー!!!」
森中に響き渡る声で、泣き始めた。
誰かを呼んでいるのか?
もしかして、森の中に、コイツの仲間がいて、今の泣き声を聞きつけて、何十匹もの仲間が、這い這いしながら、この小屋を襲ってくるのか? この小屋を凶暴な目をぎらつかせて、包囲してしまうのか?
一瞬、おびえた。
けど、もちろん、そんなことはなくて。
赤ん坊、打った鼻を押さえて、一通り泣き喚いた後、ピタリと泣き止んだ。
そして、目の端に涙を浮かべたまま、オイラを振り返り、プイと別の方向を向く。
なんのつもりなんだろうか? オイラ、その場でしばらく考え込んでいたけど、やがて、気がついた。
『ついて来い!』って合図だな。
赤ん坊は、泥だらけになりながら、小屋の横手の納屋に入り、何かを物色し始めた。
やがて、目的のものを見つけたみたいで、オイラにそれを取ってくるように、指差す。
「ハイハイ、アレを取ってくればいいんだな?」
オイラは、納屋の奥に分け入って、ホコリの積もった、木の箱を引っ張り出してきた。次に、赤ん坊は納屋を出、裏手の谷川の小さな河原に降りていった。
「ん? こんな箱で何するんだ? 水でも汲むのか?」
「何をするつもりなのかしら? この中に、食べられそうな草だとか、虫だとか、入れろってことかしら? それとも、この箱いっぱいの魚を捕まえろ?」
シルフさんも不思議がっている。
もちろん、オイラたちの質問に答えは返ってこなかった。
赤ん坊は、オイラたちの声が聞こえているわけでもないし、仮に聞こえていて、答えてくれたとしても、オイラたちには赤ん坊の言葉なんて理解できない。
赤ん坊は、這い這いしながら、水際までやってくると、オイラに箱を水面に投げ入れるように身振りで指示した。
その指示に従うと・・・・・・
驚いた。
木の箱、水面に浮かぶよ!
そう、即席の船の誕生だった。
な、なんでコイツ、箱が水に浮かぶって知っていたんだ?
それより、こんな即席の箱舟をつくって、一体何をするつもりなんだ?
驚いているオイラをよそに、赤ん坊は船のヘリを抑えて、中を覗いたり、外見を確認したり、しばらく仔細に点検していたが、しばらくして、満足そうにうなずいた。
赤ん坊的には合格だったようだ。
それから、やおら、その船の中に乗り込んだ。オイラにも隣へ来るように指示。オイラ、びっくりしていて、何も考えることなく、隣に入る。シルフさんは、オイラの頭上に浮かんでいるみたい。
そして、オイラたち、出航した。




