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はじまりの実験 8

 汚れた服を裏の谷川で洗濯し、赤ん坊の無言の指示に従い、ご主人の代えの服で赤ん坊を包んでやると、もう、いつものお仕事の時間になった。

 いつものお仕事、雑草という名の緑色の怪物退治。

 ご主人がいないわけだし、今日は、休んでしまおうかとも思ったが、もし突然ご主人が帰ってきて、畑の魔法植物が枯れているのを発見したときに、どのような折檻がオイラに待っているか・・・・・・

 怖くて、休んでなんかいられない!

 朝から、雑草を捕まえて、引っこ抜く! 引っこ抜く!

 どれぐらい時間が過ぎた頃だろうか、オイラの体を風がやさしくなでた。

「どう? アイツ、元気にしてる?」

 シルフさんだ。

 雑草を抜く手(毛?)を休めて、

「うん、たぶん、今、小屋にいるはずだよ。ひどいじゃないか、オイラひとりにアイツの面倒を押し付けて! あの後、洗濯したり、掃除したり、大変だったんだぞ!」

「ははは、なに言ってるのよ! アイツの面倒なんて、そもそも私の知ったことじゃないわ!」

「え?」

「大体、私は、たまたま、あのときあそこにいたせいで、こんなことに巻き込まれただけなの! あの小屋を管理する責任のあるアンタと違って、私にはアイツを気にかけなきゃいけない義理なんてないのよ」

「う、それは・・・・・・」

 たしかにそのとおりではあるけど・・・・・・

「面白そうだから、一緒にいてあげてるだけ! それがいやなら、いいのよ、私。アンタを一人にして、どこへでも飛んでいってあげちゃうんだから。いい? 分かった?」

 言い返せない。

 こんなわけの分からない生物と、二人きりでこれから過ごすなんて、絶対ヤだ!

 役に立たなくても、だれか側にいてほしい。

「わ、分かった」

「そ、いいわ。じゃ、ひとついいこと教えてあげるわ! ちょっとここで待ってなさい!」

 そういうと、風の気配が消えた。

 しばらく、ボーとその場で突っ立っていると、林の上を白いものがこちらへ飛んでくる。

 白い薄っぺらな布きれが、クネクネと揺れながら、踊るようにして、宙を飛び、近寄ってきた。

 やがて、オイラの足元にひらりと・・・・・・

「これ、アイツのお腹に巻いてあげなさい」

「え?」

「麓の人間たちは、これを『おむつ』って呼んでいたわ。これをお腹に巻いて、お尻を包み込むようにしてやると、今朝みたいなことがあっても、それなりの予防策になるみたいよ」

「あ、ああ、なるほど!」

「アイツは、人間の赤ん坊なのだから、アイツのことなら、人間に聞く方がはやいでしょう?」

「た、たしかに・・・・・・」

「それと、アイツは結構体が弱いらしいから、四六時中、誰かが近くについていてやらないと、いけないみたいよ」

「そ、そうなのか。う~む・・・・・・」

 オイラには、畑仕事なんていうものがあるし、シルフさんにたのむってわけにも。

「それと、アイツの食べ物だけど、人間の女が胸から出す汁でないといけないらしいわ」

「え? なにそれ?」

「人間たちは、『おっぱい』とか、なんとか呼んでいたみたいだけど・・・・・・」

「人間の女? あ、でも、ご主人も元は人間の女だったけど、そんな汁を胸から出したところなんて、見たことないけど・・・・・・?」

「へぇ~? そうなの?」

「ああ」

「じゃ、魔女になるときにでも、出ないようになったのかもね。おっぱいって人間の女しか出せないらしいし」

「ああ、なるほど・・・・・・」

 魔女は普通の人間では到底なれるものではない。魔力を手に入れ、自在に使いこなす。そんなことを生身の人間が実現するなんて、並大抵の努力では成し遂げられるものではないだろう。

 ご主人も当然、魔女になるために相当な努力をはらい、大切なものをたくさん犠牲にしてきたに違いない。

 もしかすれば、その犠牲にしたものの中に、赤ん坊におっぱいを与える能力も含んでいるかも知れない。オイラはそんな風に考えていた。

 とはいえ、シルフさんの情報によれば、今のままでは赤ん坊の面倒をみるなんて到底不可能なことだけは確か・・・・・・

 赤ん坊の面倒をみる者も、食事を与える者もいない。

「ど、どうしよう・・・・・・」



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