はじまりの実験 7
ともあれ、そのときから、オイラと風の精霊シルフさん、それにナゾの赤ん坊との共同生活が始まったのだった。
赤ん坊は、言葉を話せないし、シルフさんのように、オイラの心の声を読み取ることもできない。その上、シルフさんの声は、まったく聞こえていないみたいだった。結局のところ、精霊使いの素養がないのだろう。
まったく意思疎通が出来ない困ったヤツだ!
その上、夜中に何度も目を覚まして、オギャーオギャーと泣き喚いてくれるし。
そのたびに、オイラがベッドの中を覗くのだけど、結局、なにしてほしいのか、なんで泣いているのか理解できず、途方にくれるばかりだった。
そんな風に、途方にくれるばかりで、何もしないオイラに不満げな視線を投げかけつつも、赤ん坊は、やがて泣きつかれて、静かに眠るのだった。
次の日の朝、赤ん坊は目覚めると、ゴソゴソと這い出して、また台所へ向かった。
昨日の魔法の箱の前に座り込むと、じっとオイラを見やる。
「バーブー!」
空腹なので、蓋を開けてほしいのだろう。
蓋を開けてやると、昨日と同じように、ごそごそと中を物色しだした。
やがて、軽くため息を漏らすと、昨日のミルクビンを指差した。
中身は昨日のうちにほとんどこぼれていたので、大して残ってはいないのだが、コレしか口に出来るものがなくて、仕方なくって様子だった。
ビンをとって、渡してやると、ほとんど床にこぼしながらも、空にしてしまった。
確か、このミルクは、ご主人が、肌の手入れ用に麓の村の牧場から、どうやってかもって帰ったもののはず。
これ一本きりのものだし、どうやって新しいものを手に入れればいいのか、オイラには見当もつかない。
ともかく、それでも赤ん坊は満足のゲップをひとつ。
でも、すぐにその場に座り込んで、真剣な表情で盛んに首をひねっている。
その小さな頭で、何かを考えているようだった。
オイラは、そんな赤ん坊をその場に残し、ミルクビンを流しに放り込むと、こぼれたミルクをふき取るために、雑巾を取りに行った。
赤ん坊は、オイラの横で、その様子を眺めていたのだけど、突然、難しい表情を浮かべて、力み始めた。
「んんん・・・・・・ んん・・・・・・」
と、やがて、妙に晴れやかな笑顔を浮かべて、オイラを見上げた。同時に・・・・・・
もわわ~~~ん
お尻の方から異臭が・・・・・・
すさまじい臭気。まさに殺人的!
「な、なぁに? なにこの匂い! こんなの私の体に染み付いたりしたら、一生仲間から笑いものにされちゃうわ!」
そういい残すと、早々とシルフさんは小屋の外へ逃げ出したようだ。風が窓の外へ吹き抜けていったようだし。
赤ん坊も、この異臭には、耐え難いみたいで、盛んに手足をばたつかせて、自分が包まっているご主人の服から抜け出ようとしている。
オイラは、その様子を呆然と眺めながら、こんなのご主人に知られたら、消される! と青くなるのだった。
もっとも、オイラには青くなるなんて、機能はないはずなのだけど・・・・・・