魔女の言うことは信じるな! 5
ジョゼフィーヌは泣いていた。
「母上! 母上!」
嗚咽をあげて。心の底から。
そこへ、やさしい笑顔でフィオーリアが手を差し伸べる。
「ほら、立ちなさい」
ジョゼフィーヌはしゃくりあげながら、立ち上がる。
その肩をフィオーリアは優しく抱きしめる。
さっきまで憎みあい、殺しあった二人の美少女(?)の感動的な和解。うつくしい場面だった。
「さ、もういいでしょ? あたしを襲う理由なんてないの分かったでしょ?」
ジョゼフィーヌは『ウンウン』と何度もうなずく。
フィオーリアは満足そうに微笑むと、少し離れた場所に転がっていた剣を取り上げた。
「さあ、その剣をとり、あたしに誓うのです。二度とバカな真似はしないと。二度とあたしを襲わないと」
ジョゼフィーヌは素直に、剣を受け取ると、片膝をつき、刃の方を自分の胸に当て、剣をささげ持った。
「ボク、ジャン・セバスチャン・ガスペールは、二度と魔女フィオーリアを襲ったりしません。神にかけて、これを誓います!」
「そう、あなた、ジャン・セバスチャンっていうの。いいわ。私は、あなたの誓いを受け入れますわ」
フィオーリアは上品にジョゼフィーヌのささげる剣の柄をつかむと、取り上げ、柄に軽くキスして、ジョゼフィーヌに返した。
「これで、契約成立ね」
フィオーリア、さっきまでの蕩けるような優しい笑顔が一変して、なにか底意地の悪い表情を浮かべて、笑っている。いや、嘲笑しているのか?
「フフフ、フフフフフ」
「えっ?」
フィオーリアの突然の笑い声に、眼の端に涙を浮かべたままのジョゼフィーヌ、顔を上げた。
「アンタ、今、騎士の誓約をしたでしょ?」
ジョゼフィーヌ、一瞬考え込む。そして、ハッとした表情を浮かべた。
「あたしに剣をささげて、あたしは、その剣に口づけして返したわね」
ジョゼフィーヌ、真っ青になった。
「アンタ、今の誓約で、あたしに忠誠を誓ったことになったのよ。分かった?」
勝ち誇ったような満面の笑顔。衝撃を受け、今にも心臓がとまりそうなほど驚いている顔。
「これから一生の間、アンタはあたしに仕えなきゃいけないのよ! それが騎士の誓い。もし、この誓いを破るようなことがあれば、アンタ自身の名誉にかけて死ぬしかないわよ」
指を突きつけて、断言する。
「しかもそれは、このあたし、魔女フィオーリアへの誓約。魂の契約が同時になったってこと。あたしの今言ったこと、魔法の力によっても、補完されているの」
ジョゼフィーヌ、口をパクパクさせて言葉も出ない。
「アンタ、あたしを裏切ったら、魔法の力で、冗談抜きで、本当に命を失うわよ。ふふふ」
フィオーリアが冷たい眼でジロリと眺める。
「う、うう・・・・・・ だ、だましたな・・・・・・」
「ふふふ バカね。だれもアンタに騎士の誓いをしろなんて、一言も命令していないのに、アンタが勝手に誓いを立てたんじゃない」
「そ、そんな・・・・・・」
ジョゼフィーヌが絶望の表情を浮かべていた。
って、あの時は確か、フィオーリア自身が、ジョゼフィーヌに剣を渡して、誓えって強要してなかったっけ?
普通、相手が騎士や貴族の出で、心理的に上の立場にいる人間から、誓いを立てろと剣を渡されたなら、ついつい忠誠の誓いの仕草をしちゃうものなんじゃ?
なんというか、ずるいというか、狡猾というか・・・・・・
唖然としているオイラの目の前で、フィオーリアが満面の笑顔で言った。
「ふふふ さあ、あたしの騎士セバスチャン、これから一生の間、よろしくね。仲良くしましょうね」
そうして、悪魔的な哄笑が、いつまでもいつまでも中庭に響き渡るのだった。