魔女の言うことは信じるな! 3
オイラたちは、再び空を飛んでいた。
今回は、天井へ飛び上がるのではなく、中庭へ降りるために。
オイラたちは、ふわりと羽のように地面に降り立った。
「ふぅ~ やっと終わったわ。これでまた静かになるでしょう」
フィオーリアはやれやれというように、額の汗を手の甲でぬぐう。
「・・・・・・」
一方、ジョゼフィーヌは、さっきから無言のままだった。なにかを思いつめでもしたような厳しい顔をしている。
フィオーリアは井戸の水を汲み、グビグビと飲み始めた。
そのときだった。
ジョゼフィーヌが、中庭の隅へ走り出した。
そのジョゼフィーヌが走っていく先には・・・・・・
雷撃を受けて倒れている襲撃者の姿。最初に倒された襲撃者だ!
オイラたちが見ている中で、ジョゼフィーヌ、襲撃者のかたわらに落ちていた抜き身の剣を拾い上げ、フィオーリアに向かって構えた。そして、
「死ね! 極悪魔女め!」
フィオーリアへ向かって切りかかっていく。
「ちょ、ちょっとナニよ! まったくもう!」
フィオーリアはすんでのところでジョゼフィーヌの切っ先をかわした。それから手に持っている棒のようなものを構えた。
手に持っている棒のようなもの・・・・・・ つまり、オイラだ! ヒィィィ~~~~~!!!
「なんなのよ、アンタ! あたしに恨みでもあるの?」
「フンッ! 先ほどからの行動をみれば、お前が極悪魔女だというのは、明らかだろうが! 殺すには、それだけで十分だ!」
「アンタたちの命をだれが救ってあげたと思ってるのよ! ったく! これだから、下等生物は・・・・・・キャッ!」
ジョゼフィーヌが切りかかってきた。どう見ても、ジョゼフィーヌの剣捌きは、普段から訓練を積んだそれに見える。それに対して、フィオーリアはオイラをめちゃめちゃに振り回して、対抗しようとする。
って、や、やめて! いくらオイラでも、剣相手じゃ切られちゃうよ! オイラの柄、そんなに丈夫じゃないんですよ!
ふ、フィオーリアさん、お願いですから、オイラの体で剣を受けとめようとしないで!
あ、あぶない!
オイラの体のすぐ近くを剣の刃がすり抜ける。
「ちょ、ちょっと、箒! なにやってるのよ! アンタ、あたしを守って戦いなさいよ!」
オイラ、必死にジョゼフィーヌの剣をよける。
「くねくね身をよじって、避けるんじゃないわよ! あたしがあぶないじゃない!」
って、オイラが危なくてもいいんかい!
ひゃっ! きたっ!
「死ねッ! 腐れ魔女!」
オイラは思いっきり、身(柄)をそらして、ジョゼフィーヌの攻撃をよけた。
なんとか、オイラはジョゼフィーヌの必殺の一撃を、髪(毛)一重の距離でよけることができた。だが、その行動は、ジョゼフィーヌにとっては、まったく予想外の動きだったようだ。
当たり前の話だ! どこの世界に、くねくねと動く剣があるというのだ!
そして、オイラのよけた先に飛び込んできたのは、ジョゼフィーヌの頭だった。
バチコーン!!!
盛大な音を立てて、ジョゼフィーヌはオイラとぶつかった。
一瞬、オイラの中で不気味な軋み音が・・・・・・
でも、なんとか、オイラは耐えた。でも、ジョゼフィーヌは・・・・・・
ジョゼフィーヌはその場に仰向けで倒れて、伸びていた。
剣は手を離れ、遠くに吹っ飛んでいる。
その神々しい長い金髪は後ろに転がって・・・・・・ 転がって?
ジョゼフィーヌの体と髪の毛の間に地面の土が見える。
って、ことは・・・・・・?
ジョゼフィーヌの長い髪、カツラだった。本当の髪は、短く刈り込んだ金髪だった。
ジョゼフィーヌ、男だった!?
オイラが衝撃の光景に驚いて呆然としていると、
「よくやったわ、箒。褒めてあげる」
満足そうなフィオーリア。一方、
「大丈夫? 怪我とかしてない?」
シルフさんがおろおろとした声で、心配してくれる。
「ああ、なんとか」
やっぱり、性悪クソガキより、風の精霊さんの方が何万倍も素敵だ!
「まぁ~!」
風が、オイラのまわりを優しくまわった。