魔女の言うことは信じるな! 1
オイラを握るフィオーリアと、そのフィオーリアにつかまっていたジョゼフィーヌ、尖塔の天辺に座りこんでまわりを見回していた。
「あそこの井戸の陰に一人いるわね。それに、あのユリアン爺さんちの大木の後ろ」
「ヒューイの家の納屋の裏にも二人いるよ」
「ええ、それで、全員かしら?」
「たぶん・・・・・・ で、これからどうするの?」
「ふふふ。いい、見てらっしゃい。偉大なる魔女様の真の実力を、虫けらのアンタにも見せてあげるわ。見て、腰を抜かしなさい! そして、神のごとく崇めなさい!」
瞳を妖しく光らせて、立ち上がった。となりで、ジョゼフィーヌ、閉口。
やがて、両目を閉じ、空いた方の手を頭上に掲げ、口の中でなにかゴニョゴニョつぶやき始める。
呪文を唱えている。それも、オイラの知らないヤツ。
と、頭上に掲げた手の先の空間に小さな光の粒が現れた。同時に、オイラの中から何かが急激に抜け出ていく。
見る間に、その光の粒が膨れ上がり、レモン大に、オレンジ大に、メロン大に、そして、スイカ大に・・・・・・
それでも光の膨張とまらない。
なんだか、下の方がざわざわしてきたような。
まあ、突然、監視対象の塔の上に光が現れたのだし、ビックリしない方がヘンか。
さらに、犬ほどの大きさに、豚ほどに、人ほどに、馬ほどに、牛ほどに!
下の襲撃者たち、こちらを指差して、口々になにか言い始めたのがみえる。
その間に、荷車ぐらいに、納屋ほどに、そして、ついには、この神殿並みの大きさに!!!
フィオーリア、妖しく瞳を光らせ、フフフと不敵に笑っている。
ジョゼフィーヌの眼にも怯えの色が・・・・・・
「さあ、下等な虫ども、消滅しておしまいなさい!」
フィオーリアが手をゆっくりと下ろすと、頭上の光も下へ向かい始めた。
はじめはゆっくりと、しだいに加速度がついて、速く。
そして、少女は、最後の一言を叫んだ。
「ブレイク!!」
神殿ほどの大きさの光の塊、その途端、何十にも分裂した。そして、無秩序な軌跡を描いて・・・・・・
――――チューン、ドドドドドドドッ!!!!!!
あたり一面に無差別爆撃。
あっという間に、あたりは火の海に変わった。
「フホホホホ! 見た? いい気味だわ! ウホホホホー!!!」
「す、すごい・・・・・・!?」
「さあ、燃えておしまい! 何もかも、みんな燃えておしまい!! ホホホホホーーー!!」
下の火の海からの照り返しの中、哄笑を上げているフィオーリアの横で、ジョゼフィーヌがハッとした表情を浮かべた。
「って、おい! お前、なにやってんだ! あそこには、敵ばかりでなく、町の人もいたんだぞ! どうしてくれるんだよ!」
ジョゼフィーヌのまっとうな非難ももう耳に入らないようで、再びさっきと同じ呪文を唱え始めるフィオーリア。
「お、おい!」
「チッ! うるさいわね! アンタも吹っ飛ばすわよ!」
キッとジョゼフィーヌをにらむ。
ヒィィーーー!!
思わず、ひるんだジョゼフィーヌ。
ダメだ、こいつ完全にいってる!
ジョゼフィーヌがそうつぶやいていた。
不意に、オイラの耳にシルフさんの声が聞こえてきた。
「ちょ、ちょっと、今のなによ? なにがあったの?」
「あ、お帰り」
「このあたり火の海じゃない! 信じらんない!」
「ああ、オイラもだ!」
「ああ、ボクもだ!」
オイラとジョゼフィーヌが同時に返事をした。
「ああん? なにがボクもなのよ?」
シルフさんの声をとらえられないフィオーリアが、冷たい声音でジョゼフィーヌに質問。
「い、いや、なんでも・・・・・・」
ブルッと震えて、口の中でモゴモゴ・・・・・・
か、可哀そうに・・・・・・ すっかり怯えて・・・・・・
「それより、来たわよ。ガシューの店を襲ってた連中。ほら、大通りの方」
オイラがシルフさんの言う方向を見ると、確かに東の大通りの方角に、数十人の人影が見える。
でも、何か立ち止まって、混乱しているような。
って、いきなり目的地の方向が火の海になったのだから、当たり前か。
「お、おい、フィオーリア・・・・・・さん?」
ジョゼフィーヌが遠慮がち(?)に、
「ああん? ナニ? あたし、いそがしいんだけど?」
「い、いや、その、大通りの方、新手が・・・・・・」
「ん? ああ、あれね、分かったわ」
そして、呪文の詠唱が終わった。
頭上には、再び、神殿ほどの大きさの光の塊が。
「ふふふ、さあ! 絶望しなさい! 苦しみなさい! 生まれてきたことを後悔しなさい! 虫けらどもめ!」
なんか最低な言葉を発して、腕を大通りの方へ振った。
頭上の光の塊、その動きにつられて、大通りの方へ。
最初はゆっくりと、しだいに加速度をつけて。
よく見ると、大通りの人影、動揺し、背を向け、バラバラになって逃げ出していく。
「フンッ! 今頃逃げ出しても遅いわ! 虫けらどもめ!」
にやりと悪魔的に笑い。
「ブレイク!」
再び数十の光の玉が、無秩序な軌道を描いて、逃げていく襲撃者たちの背中を襲う。
――――チューン、ドドドドドドドッ!!!!!!
そして、大通り方面も火の海と化したのだった。