襲撃 7
「一体、なにがあったの? なにか雷のようなものが、私の脇を通り抜けた気がしたけど?」
「ああ、その話は後で、とりあえず、礼拝所の方へ、避難してましょう」
「ええ、あ、ジョーンの手当てをしないと」
というわけで、オイラたちは、礼拝所に篭ることになった。
礼拝所の中の長ベンチを取り外して、窓という窓、ドアというドアにバリケードが築かれている。
レオンとジョゼフィーヌ、フィオーリアにエリオット、それに、ジョーン、もちろんオイラも礼拝所の隅にいる。
シルフさんは、外の様子を見てくると言い残して、偵察中。
礼拝所はすでに敵に囲まれている。
エリオットの手当てを受けて、さっきまで血の気のない様子だったジョーンにも、しだいに血の色が戻ってきていた。
「旦那様がたがお出かけになったあと、私どもはなにかあってはいけないと寝ずに警戒していたのですが・・・・・・」
なんでも、ガシューが店をはなれてしばらくして、突然、花火のようなものが打ち上げられ、それが店の4階の窓に飛び込んで破裂したらしい。
たちまち、4階が火に包まれ、消火しようと、店のものが騒いでいるところへ、襲撃がはじまった。
敵は、消火に手一杯で無防備な店の者たちに近づいて、手刀の一撃で、次々と店の者たちを気絶させていった。
どうやら、店の者たちの命までとる気はなかったようだ。
ただ、ジョゼフィーヌと同じぐらいの年頃の小僧たちは、敵に捕まり、どこかへ連れていかれたという。
で、ジョーンはたまたま店の高価な品物を延焼から救い出そうと、倉庫の中で作業していたところだったので、襲撃に気づいたときに、物陰へ隠れて、難を逃れることができたらしい。
そのまま、敵の目を盗んで逃亡し、ガシューに知らせようと神殿近くまで走ってきたところで、さっきのヤツラに襲われたのだった。
「そう・・・・・・」
エリオットが悲しげな表情を浮かべた。
「しかし、見事に囲まれたな。これでは、ガシュー殿が河舟を用意できたとしても、抜け出せそうにもないな」
「そうね・・・・・・」
窓の隙間から見た感じでは、囲んでいるのは、もともと神殿の周辺にいた敵の20人ほど。
でも、最初の戦いで二人がすでに倒されているからか、警戒して神殿を囲むだけで、手出ししてこない。おそらくガシューの店を襲った者たちも呼び寄せて、合流してから、襲撃してくるつもりだろうか。
近所の町の人たちも、異様な雰囲気に、怯えて、すでにそれぞれの家の中に閉じこもってしまっている。
異様に、静かだ。
「ったく! なんなの? この騒ぎは、一体?」
そんな中、一人事情を飲み込めないでいる少女が一人。
「外のアイツらは、ナニ?」
「・・・・・・」
でも、だれも答えない。
「ちょっと、無視するな! 人が訊いているのだから、答えなさいよ!」
一番手近かにいたジョゼフィーヌに詰め寄る。
「うるさい! 今、それどころじゃないの、分からないのか!」
「はぁ~! 何様のつもり? たかが人間の分際で!」
「なんだと! お前こそ、何のつもりだ! 卑しい魔女のくせに!」
「なんですってぇ!」
「なんだよ!」
場所柄をわきまえず、喧嘩を始めそうな二人を止めたのは、レオンだった。
「たしかフィオーリアちゃん・・・・・・だったよね?」
「ええ、ここではそう呼ばれてるわ」
「すまない、我々のために、君までこんなことに巻き込んでしまって」
「ん?」
「外の敵は、私たちの命を狙っているのだ。私とそこにいるジョゼフィーヌの」
「・・・・・・?」
不審げな眼をレオンとジョゼフィーヌに向ける。
ひとしきり二人の姿をたっぷりと眺めた後、
「なんで?」
でも、レオンは首を振る。
「すまない、今はそれを話せない」
「ふ~ん・・・・・・?」
「まあ、いいわ。とにかく、アンタたちのせいで、あたしまで、命の危険にさらされてるってことね?」
「ああ、そうだ。すまないと思ってる」
「じゃあ、あたしたちが生き延びるためには、アンタたちを外にたたき出すか、外のヤツラをやっつけなければいけないのね?」
「・・・・・・ああ」
「ふ~ん・・・・・・」
なぜか、じろりとジョゼフィーヌをねめつける。
「アンタ、外へ出て行けば?」
「なんでだよ!」
「アンタ、いらない! アンタのために、死にたくない! だから、アンタが死ね! わかった?」
「お、お前な!」
じ、邪悪なヤツ!
「レオンなら、助けてあげてもいいけど、アンタはヤダ!」
「ハァ~?」
って、フィオーリアの命をレオンが散々狙っていたのだけど・・・・・・
そこへレオンが困惑顔で、
「それは困る。私は、ジョゼフィーヌの護衛を頼まれたのだ。私が死ぬことがあっても、ジョゼフィーヌに死なれては・・・・・・」
ム~~~
フィオーリアうなり声を上げた。
「なら、アンタたち二人とも、外にいって、アイツらに殺されてらっしゃい」
「お前なぁ~!!!」
どこまで自己中なのだろうか・・・・・・
「こら! フィオーリア、いい加減になさい! さっきから聞いてると、いい気になって!」
エリオットの叱責が飛んだ。さすがに、普段から説教とかしなれている司祭なだけあって、ものすごい声量だ。しかも音がこもる礼拝所。まさに音の暴力だ!
柄(頭)がガンガンする。
フィオーリアも同じようで、フラフラしている。
「大体、アンタみたいな子供が口を挟んでいい状況でないことぐらい、分かるでしょ? まったく、この子は!」
そして、レオンに向き直って、
「レオンもレオンよ! こんな子供のたわごと、一々相手しないで! 今は、そんな場合じゃないでしょ?」
レオンも、首をすくめている。
「今はみんな絶体絶命のときなの! 真面目に、この状況を切り抜ける方法を考えなくちゃいけないの! みんな、分かった?」
「ああ・・・・・・」「うん・・・・・・」「はい・・・・・・」
力強く宣言したが、どこか、戸惑ったような返事がパラパラと返っただけだった。