襲撃 6
ヒィィィ~~~!!!
神殿の裏で女性的な悲鳴が!
そして、なにやら争うような音がして。
バタンッ!
裏木戸が勢いよく開けられ、影が転がるようにして、中庭に飛び込んできた。
それを追って、エリオットの部屋から漏れる明かりに反射して、鈍く光る刃を振りかざしたマントの男が飛び込んでくる。
レオンは、窓の桟を飛び越え、腰の刀を抜きつつ、男が振り下ろした剣を、下から受け止めた。
後から飛び込んできたマントの男は、一瞬、驚いた顔をしたが、次の瞬間には、ニヤリと笑顔になった。
「その姿、見たことあるぞ! レオン・フランシスだな?」
そして、一歩飛びのいて、レオンの胴払いの一撃を交わし、懐から笛を取り出し、吹いた。
ピィィィィ~~~~♪
甲高い笛の音が町の中でこだまする。
「チッ 見つかったか・・・・・・」
神殿の中庭で、レオンと冒険者風のマントの侵入者が剣を構えて対峙していた。
「おい、お前、大丈夫か?」
レオンが小声で、背後でへたり込んでいる最初に中庭に飛び込んできた男に尋ねる。
「は、はい。大丈夫です。ちょっと腕を切られただけで。でも、お店が! お店が!」
「ああ、分かってる。ガシュー殿も既に承知している」
その男、レオンの言葉をきいて、安堵したようだ。
そして、バルコニーまで出てきたエリオットの姿を見つけ、慌てて駆けていった。
「エリオットさま、ご無事で」
「ああ、ジョーンね。お前も無事でよかったわ」
「はい・・・・・・」
その二人の目の前で、レオンと侵入者、剣を交えた。
侵入者の裂帛の気合をこめた一撃を、レオンが一歩踏み込んでよけ、必殺のレオンの突きを侵入者が後ろに跳び退ってかわす。
明らかにレオンの方が技量は上。
たちまち、侵入者、裏木戸のかたわらまで追い詰められた。
追い詰められ、焦りの色が見え始めた侵入者、一か八かの捨て身の突撃。
それを冷静によけて、軽い一振りで、侵入者の手から剣を叩き落とす。
勝負あり!
侵入者は、突撃した勢いのあまり、四つんばいになって、レオンに無防備な背中を向けている。そして、落とした剣はレオンの足元。
あとは、レオンが剣を一振りするだけで、侵入者の命を立つことができる!
だが、レオンは剣を振るわなかった。
それどころか、急に振り返って、何もない空間を剣で払った。
キィンンンン~~~~!!
なにか、金属質のものが、剣に触れて、火花を飛ばす。
さらに、もう一振り。
キィンンンン~~~~!!
だれかが、外からナイフを投げているのだ。
と、這いつくばっていた侵入者、立ち上がった。捕まえ、羽交い絞めにしようと両腕を広げて、レオンに突進していく。
「あぶない!」
エリオットの悲鳴で、とっさに、レオン、脇に飛び、飛び掛ってきた侵入者をやり過ごした。
侵入者はレオンを捕まえ損ねたことで、悔しそうにチッと舌打ちをひとつしたが、足元に転がっている剣を拾い上げ、また、構えた。
レオンは、今や2対1。
剣の技量では、はるかに勝っているようだが、多勢に無勢。
おそらく、さっきの笛の音に引かれ、これからもっと敵が増えるだろう。
だれが見ても絶望的な戦いだった。
「ちょっと、なんなのよ! さっきから、うるさいわよ!」
緊迫した戦いの最中の中庭に、イライラした甲高い声が。
全員の視線が、礼拝所の前にたたずむ一人の少女のもとへ集まる。
「ったく! 精神集中の邪魔だってぇの! 静かにしなさいよ! 今、何時だと思ってるの! そんなに騒ぐのだったら、呪いでトカゲに姿を変えてやるわよ! まったくもう!」
もちろん、中庭に登場したのは、いつものように礼拝所で瞑想していたフィオーリア。
「ち、ちょっと、フィオーリア、危ないわよ! 隠れてなさい!」
エリオットの悲鳴に近い注意が飛んだ。
だが、フィオーリアが状況を把握するよりも、最初の侵入者がフィオーリアへ駆け寄っていく方が早かった。
レオンは、牽制のためのナイフが飛んできて、追うことができない。
ヒィィィィ~~~~!!!
次に起きる惨事を想像して、エリオットが悲鳴を上げた。
その間に、フィオーリアに迫った侵入者の剣が振り上げられ、振り下ろさ・・・・・・
ピカッ!!!
フィオーリアに迫った侵入者、その瞬間、光に包まれた!
振り上げた剣に雷が落ちた。
いや、正確には、雷撃が中庭を横切って、侵入者を打ち倒した。
突然のことに、外からナイフを投げていた敵も呆然とし、隙が出来た。その隙を逃さず、レオンが弾きとばしたナイフのひとつを拾い上げつつ、投げつける。
まるで、予期していたかのような行動。
ギャッァァァァ~~~~!!!
最初の戦闘は終わった。
オイラたちの勝利だった。