襲撃 5
通りには寝巻き姿の人が出ていた。
みんな東の空を不安そうに見上げている。
『あの天を焦がす盛大な火事、まさかこちらの方まで、燃え広がることないだろうな!』
『風はどっちをむいて吹いている?』
などなど、お互いに話し合っている。
でも、そんな中でも、通りのところどころで、この閑静な地区では、あまり見かけない冒険者の格好をした者たちが、あたりを油断なく警戒しつつ、物陰に潜んでいる。
レオンとガシュー、それにジョゼフィーヌは、東側の窓枠に身を隠して、目だけ出して、外の様子を観察していた。
「すでに囲まれている」
「案外、動きが早いですな」
「ああ、ヤツラの方が、一歩も二歩も先んじているってことだ」
悔しげにレオンがつぶやいた。
「どうです、出れますか?」
「う~む、まわりに町の人たちがいなければ、なんとかなるだろうが・・・・・・」
「というと?」
「今でて、斬りあいになれば、騒ぎになるだろうから、その騒ぎで、俺たちの位置がヤツラにばれてしまう」
「なるほど・・・・・・」
と、また再び。
ヒュゥゥゥゥ~~~~
東の空がより一層明るくなった。
町の人々の喧騒も、一層高まる。
「ガシュー殿、店の人たちは?」
レオンが一応尋ねると、ガシューも不敵に笑った。
「あなた様がたをお預かりしてより、この方、こういうこともあろうかと、店の者どもみな覚悟していたことです。それぞれ、自分たち自身の才覚で、なんとか生き残ってくれるものと、信じておりますよ」
「そ、そうか。すまぬ」
「いいえ、なんの。こんなことは、私ども商人にとっては日常茶飯事のこと。盗賊が押し入ったり、ライバルの商人たちの妨害にあったり。商人となったときに、私ども、とっくに腹をくくっているのですよ。気になさらないでください」
「し、しかし、ああやって店が燃えているのだし・・・・・・」
「ああ、大丈夫です。店が燃えても、財産の大部分は予め安全なところに隠してあります。店が燃えて、灰になったのなら、また、あたらしく店を建てればいいのですよ。それに、あの方には、娘ともども、よくしていただいたのですから、ご恩に報いるために、これぐらいのこと当然ですよ」
東の窓からガシューの店の方を心配そうに眺めていたエリオットが、二人の会話に自分のことがでてきて、一瞬、不思議そうな表情を浮かべた。
「さて、それじゃ、私は行って、船頭どもに船の準備をさせてきましょう」
「でも、大丈夫、お父様?」
エリオットの心配そうな声に、ニコリと笑いで返して。
「大丈夫じゃ、ヤツラの狙いは、レオン殿とジョゼフィーヌ嬢ちゃんのはず。わしがこの神殿から外へ出て行っても、それほどヤツラも警戒するまいて」
「そ、そうですか・・・・・・?」
「ああ、心配いらない」
ガシューはさらに安心させるかのように、エリオットの肩を叩いた。
でも、エリオットはそんなことでは安心できるはずもなく。
「じ、じゃ、トマスを呼びましょう。トマスに、お父様について行ってもらって」
「トマス? ああ、神殿の司祭見習いの若者か。じゃ、ついでじゃ、明かりもちにでも頼もうかの」
「はい・・・・・・ トマス! トマス!」
エリオットが大声を上げた。
もちろん、トマスは部屋の入り口の物陰の中。呼ばれて、すぐに飛び出る。
「はい、お師匠様」
「トマス、こんな時分だけど、お父様のお供をお願いできる? フィリップ親方のところまででかけるの」
フィリップ親方は、河舟の船頭のかしら。
「はい、分かりました」
そして、ガシューとトマスは、慌てて夜の町へと飛び出していった。
ガシューたちを見送ると、エリオットが眼を吊り上げて、レオンをにらみつける。
「で、レオン? あなたは私の友達でしょ? たしか私たちが王都にいたとき、あなた、私に絶対隠し事しないって約束してくれたわよね? 正直に教えてちょうだい! これはどういうこと? どうして、あなたが狙われるの? それに、ジョゼフィーヌまで?」
「そ、それは・・・・・・」
レオンは逡巡して、言いよどむ。
正直に本当のことを答えるべきか? それとも答えをはぐらかすべきか?
「なんで、ガスペール家とあなたたちが関係するわけ?」
「う、うう・・・・・・」
と、不意に、レオンの袖をジョゼフィーヌが引く。
「なんですか?」
「本当のことを話した方がいいのでは?」
「う~む・・・・・・」
「もし、ボクがここで死んでしまったとしたら、もちろんこれが最後の機会になるのだし、生き延びたとしても、ボクは外国で暮らすことになるのでしょ?」
レオンは、ハッとジョゼフィーヌを見た。
ジョゼフィーヌは、眼の端に光るものを浮かべている。
美少女の目に涙。きれいな光景だ!
レオンも、胸をつかれたようだ。
決然と顔を上げ、エリオットを見た。
「エリオット、実は・・・・・・」
ヒィィィ~~~!!!