襲撃 4
「だそうよ!」
「えっ!? じゃ、ガシューの心配的中したんだ!」
オイラは驚きの声を上げてしまったのだが、幸い、その声を聞くことのできる人間はこの部屋にはおらず・・・・・・
あっ! そういえば、シルフさんの声なら聞くことのできる人間が、この部屋にいたのだった!!
もちろん、その人物・ジョゼフィーヌはシルフさんの報告に耳を傾けていて、
「ち、ちょっと待って、レオン! ガシューおじさん!」
話し合いが済み、エリオットの部屋を後にしようとしていたエリオットもレオンもガシューも、その声に立ち止まった。
「どうしたの? ジョゼフィーヌ? 寮へ急がないと」
「ダメです! 今、追っ手が寮へ向かっています」
「えっ? なに言ってるの?」
大人たちは、全員不思議そうな表情を浮かべて、奇妙なことをいう少女を見つめた。
「ううん、寮だけでなく、お店もこの神殿も襲うつもりです!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「王都の方から来た、冒険者風の100人以上の集団が、今、町の外の林の中に待機していて、お店を襲撃するつもりらしいです。で、寮とこの神殿にも人数を割いて、ボクたちが逃れてきたときに備えて隠れている計画みたい」
やけに確信をもって断言するジョゼフィーヌに、大人たちは戸惑うばかりだった。
「ど、どうして、そんなことが?」
「いまシルフがボクに教えてくれたの」
「シ、シルフ?」
「シルフ? 風の精霊か」
「シルフ・・・・・・」
大人たちは、ジョゼフィーヌを信じられないものでもみるかのように見つめていた。
「あなた、精霊使いの素質があるの?」
「ええ、我が家は代々そういう家柄なので」
「そ、そう・・・・・・」
エリオットは、なにか思い出したのか、考え込む。
「その話が本当だとすると、どこか他の場所へ向かった方がいいか」
「しかし、この近辺で、まだアチラ側の息のかかっていない安全な場所を探すのは、難しいのではないでしょうか?」
「うむ・・・・・・」
ガシューとレオンが顔を寄せ合って、ヒソヒソ相談し始めた。
二人とも、微塵もジョゼフィーヌの言葉を疑ってはいない様子だった。
こんな小さな子供が精霊と話ができるというのに、疑問をもたないのだろうか?
「万事窮すに近いかもしれませんね」
「かもしれんな・・・・・・」
って、二人ともあきらめるの早ッ!
「でも、まあ、アチラも、まさか既に我々がこちらへ逃げ込んでいることまでは知らないだろうから、こちらから打って出るってのも、ありかもしれんな」
「ふむ・・・・・・」
ガシューがレオンの意見を検討している間に、レオンが振り返って、
「ジョゼフィーヌ、こちらへ向かって来る人数は何人か分かるか?」
「はい、えっと、20人です」
「20人か・・・・・・ 相手が本当に冒険者であれば、20人ぐらいの相手なら、何とかなるのだが・・・・・・」
「どうやら、冒険者を装ってはいるみたいだけど、おそらく、どこかの兵隊たちだろうって」
「だろうな、やっぱり・・・・・・」
レオン、苦笑い。
「たとえ、こちらに向かってくる20人を倒したとしても、いずれ、ガシュー殿の店を襲撃した数十人の者たちが気づいて、こちらへ向かってくるだろうし・・・・・・」
「ええ、やはりここは、かなり危険ですが、フィオーレ河を船で一旦河口まで下って、国外へ脱出するしかないかもしれませんな」
「ああ、そうだな」
ようやく、今後のことについて、ガシューとレオンの話し合いがまとまった。
「よし、じゃ、分かりました。これから、ちょっと行って、船頭たちをたたき起こし、船の準備をさせてきます」
「ああ、よろしく頼む」
そして、ガシューは神殿を出ようとしたのだが・・・・・・
ヒュゥゥゥゥ~~~~
町の東の方角から、奇妙な音が聞こえてきた。
そして、パッと東の空が明るくなる。
花火か!?
全員が、東に面した窓へ駆け寄った。
でも、眼にしたものは、花火とはまったく違うものだった。
町の東の空が赤々と光っている。
「火事だ!!」
だれがつぶやいた言葉か・・・・・・
チッ! もう始まったか!
うめき声も聞こえてきた。
やがて、町のあちこちでも、その赤い空の光景に気がつく人が現れたようで。
火事だ!! 火事よ!!
と騒ぎ始めた。
町が一気に目覚めた。