襲撃 2
オイラは開けっ放しになっている入り口からエリオットの部屋の様子を覗いていた。ちょうど扉の陰になっている場所だから、だれにもオイラの姿は見えないはず。
レオンは伸びていた。
エリオットの悲鳴の直撃を食らったのだ。当然だ。
ソファーに横たえられ、額に井戸水に浸した手ぬぐいがあてられている。
ジョゼフィーヌも部屋の隅に椅子を与えられ、座ってはいるが、なぜか顔色がすぐれないようだ。それに、常に眼が不自然に泳いでいる。
基本的には、部屋の奥、書き物机の椅子に座っているエリオットの姿を求めて、エリオットのいる方へ視線が向かうのだが、そのエリオットを視界におさめると、たちまちあらぬ方へ視線が飛んでいき、また再び、エリオットの姿を求めて・・・・・・
それをさっきから延々と繰り返している。
一体、なんなのだろうか?
「で、なんで、レオンたちが、ここにいるの?」
レオンは、手ぬぐいが落ちないように押さえながら、上半身を起こした。
「それなんだが、私も、よく分からない」
「ん? どういうこと?」
レオンもエリオットも困惑気味。
「今晩、私たちが寝室で寝ていると、ガシュー殿が飛び込んでこられて、急いでフィオーレ神殿へ向かうようにと」
「ん? お父様が?」
「ああ、なんだか、ひどく慌てた様子だった」
「お父様が・・・・・・? 一体、なんだろう?」
エリオット、首をひねるばかり。特に心当たりもなさげだ。
「後で、われわれを追いかけてこられるとおっしゃっておられたから、そのときにでも、事情が聞けるのでは」
「そうね。分かったわ」
ちょうど、そこへ、台所の方から、トマスが盆をもってやってきた。
「失礼します」
「あ、トマス。悪いわね、こんな時間に」
「と、とんでもない! とんでもないです」
トマス、エリオットの部屋に入ると、中の三人に順にお茶を手渡していく。
「あ、ありがとう」
「ありがとう」
「・・・・・・」
そして、部屋の入り口へ戻っていった。
「では、失礼します」
ぺこりと一つ頭を下げ、また台所の方へ。
と思ったら、オイラと同じように、中から見えないよう陰にまぎれて、エリオットの部屋の様子を伺っているし。
う~ん・・・・・・
やっぱり、トマスも、いま何か異変が起きようとしているのに、気がついて興味津々って様子。
ったく! この司祭見習いは!
中の三人は、それぞれ思い思いにトマスがいれてくれたお茶をすすっていた。
無言で。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
だれも、なにもしゃべらない。ただ、だまって、お茶をすすっているだけだが、同時に外の気配をうかがっている様子だけは共通したもの。
しばらくして・・・・・・
タタタタ――――
小走りに走ってくる足音が聞こえてきた。
エリオットが立ち上がり、部屋の外へと歩いてきた。
暗がりに隠れていたトマス、慌てて、自分の部屋の方へと引き返す。
そんなトマスに気づくこともなく、エリオットは、廊下にで、バルコニーから中庭へ出て行った。
裏通りの足音は、裏木戸あたりで止み、
ギィィィィ~~~~
今日は裏木戸大活躍だ!
裏木戸を開けて中庭へ入ってきたのは、小太りな人影。
「お父様?」
「ああ、エリオットか」
ガシューだった。
「レオンさんたち、無事到着しているか?」
「はい、さきほど。で、何がありましたの?」
「ああ、それは、レオンさんたちにも話さないと」
「みなさん、私の部屋です」
勝手知ったる娘の神殿。ガシューはエリオットを従えて、サッサとエリオットの部屋へと入っていった。
一体、こんな夜更けに、なんの騒ぎなのだろうか?
オイラとまた戻ってきたトマスは、すこしワクワクしながらも、聞き耳をたてるのだった。