襲撃 1
オイラは、『シルフさん、早く戻ってこないかなぁ?』と中庭の暗がりにとどまって待っていた。
もちろん、この間も、レオンの襲撃が万一あっても対処できるように、油断なくあたりの気配をうかがうのは忘れない。
タタタ――――
トトトトト――――
しばらくして、裏通りをこちらの方へ近づいてくる足音が聞こえてきた。
今度は、さっきの若者とは違って、駆けてきたわけではないようだ。
足音からすると、二人分。小走りな感じ。
やがて、裏木戸のあたりで足音がやんだ。
そして、
ギィィィィ~~~~
この裏木戸が外から開かれるのは、今晩は二度目。
やっぱり、裏通りを進む足音が聞こえてきていたから、おそらくレオンの襲撃ではないだろう。
オイラは、どこか気の抜けた感じで、裏木戸を通りぬける人影をみていたのだが・・・・・・
開いた裏木戸から最初に中庭へ入ってきたのは、背の高い男。なにか板のような大きなモノを背負い、長髪を首の後ろで束ね、マントにくるまっている。
ムッ! 見覚えが!
オイラが、そう感じた途端、気がついた。
レオンだ!!
ついに、レオンが襲ってきた!
オイラは、慌てて呪文を唱え始めた。
今、このとき、レオンが一目散に礼拝所へ走りこんだなら、オイラが攻撃魔法を放つ前に、フィオーリアの命を絶つことができたに違いない。
オイラは焦っていた。
おかげで呪文の文句を途中で間違えた。
チッ!
もう一度、最初からやり直し!!
く、くそーー!!!
でも、焦っているオイラの目の前では、レオンは神殿の内部へ走りこもうとはせず、中庭にとどまって、裏木戸を押さえたまま立っている。
そんな開いたままになっている裏木戸を通って、小柄な人影が中庭に出現した。
えっ!?
もちろん、レオンと一緒にいる小柄な人物といえば・・・・・・
ジョゼフィーヌ!!!
とうとう、襲撃の失敗つづきに痺れを切らして、本人がやってきたのか?
ち、ちょうどいい!
もし、レオンがフィオーリアを手にかけるようなことがあったら、ジョゼフィーヌに復讐してやる!
オイラは咄嗟にそう決心した。
ジョゼフィーヌが中庭に入り込むと、レオンは裏木戸から頭だけ出して、左右を確認し、木戸を閉めた。
「どうやら、大丈夫なようです。つけている者はいなかったようです」
「そう」
ジョゼフィーヌは短く答えた。
「しかし、一体、ガシュー殿は、なぜこんな時間に我々をたたき起こして、こちらへ来させたのでしょう?」
「さあ? ボクにもわからないよ」
二人とも、困惑して、肩をすくめるばかり。
ってことは、神殿へこの二人を寄越したのは、エリオットの父親で、この二人の世話を焼いているガシューか。
「とにかく、エリオット様に案内を請いましょう」
「ああ、・・・・・・そうして」
レオンは、エリオットの部屋の窓の近くに移動した。そして、窓枠をコンコンと叩き始めた。
「もし、エリオット様? もし、もし、エリオット様?」
もちろん、普通の人は既に寝入っているはずの時間帯、そんなことでエリオットが起きるはずなんてないだろうに?
オイラは、ちょっと皮肉な気分で、レオンの愚かな行動を眺めていたのだけど・・・・・・
二回目に、レオンが窓枠を叩こうとした瞬間、エリオットの部屋に明かりがともった。
えっ? エリオット起きてたの!?
驚いたのは、オイラだけではなかった。
レオンもジョゼフィーヌも、みんなその場で石化したように固まっていた。
「だれ? もしかして、ジャン・ルイ? ジャン・ルイなの!? やっぱり、来てくれたのね?」
カーテンが勢いよく開かれる。
そして、ランプの光が窓の下のレオンを照らす。
「おお、ジャン・・・・・・」
中庭にレオンが立っているのに気がつき、眼が点になったエリオットの顔が見え・・・・・・
次の瞬間、超音波の悲鳴が、平和な夜の静寂を引き裂いた。
神殿の周囲では、様々なガラス製品が粉々に砕け散ったという。