新月の夜 6
「えぇぇぇ!?」
エリオットの絶叫が。
「今晩、ジャン・ルイは来ないの!!」
手紙を読み終えたエリオットが、絶望の声を上げた。
「どうして? なぜなの? アンタ、ジャンから何か聞いてないの?」
コレは、部屋のソファーに腰掛けているはずの、さっきの青年への問いかけ。
「はっ、特になにも・・・・・・」
「一体、どういうこと? 毎月、新月になったら、必ず私の元へ来てくれていたのに・・・・・・」
「は、はぁ~」
ってことは、ジャン・ルイっていうのが、いつもの黒マントの男の名前ってことか。で、今日現れたこの青年は、そのジャン・ルイの従者かなにかって所かな?
いずれにせよ、ジョゼフィーヌやレオンの関係者というわけでもなさそうだ。
ちょっぴり一安心。
安心した途端、これからこの二人の間で何がおこるのか、むくむくと興味がわいてくるもので。
「ま、まさか、ジャンに他の女が・・・・・・!?」
「い、いえ、決してそのような・・・・・・」
今頃、部屋の中では、嫉妬に狂って、顔から血の気が引いたエリオットが、手紙をねじって、唇をかんでいるのかも。
オイラは、中庭にいて、部屋の中の様子が見えないが、あれこれ想像をめぐらして、中の気配を探っていた。
もちろん、目だけは油断なく、路地裏の暗闇を見張ってはいたけど・・・・・・
「わが主は、ただいま王都にご滞在でございます」
「王都? 王様に呼ばれているの?」
「はい、そのようでございます」
「そうなの・・・・・・」
「はい」
しばらくの間、部屋の中が沈黙していた。
「そう、それなら仕方がないわね。王様のお呼びじゃ」
「はい」
「でも、ジャン・ルイに王様がなんの御用なのかしら?」
「さ、さぁ? 私には、分かりかねます」
「そうよね。さ、お茶でも飲んでちょうだい。冷めないうちに」
「ありがとうございます。いただきます」
青年がズズとお茶をすする音が聞こえてきた。
「今晩は、王弟殿下主催の晩餐会もございまして、そちらへ向かわれる前に、私に手紙をお預けになられたのです」
「ん? そうなの・・・・・・」
なぜかより一層沈んだ様子。
「王弟殿下といえば、キャスリーン様、お元気?」
「はい? 奥方様ですか?」
「ええ」
「はい、お元気で、いつもうるわしくおわせられます。先日も奥方様のお父上様であらせられます王弟殿下がガスペールのお屋敷の方においでになられまして、お泊りになっていかれました」
「そうなの・・・・・・」
ガスペール? どこかで聞いた名前だ。
え~っと・・・・・・
でも、そのときは、オイラ思い出せなかった。
「じゃ、それじゃ、セバスチャンは?」
「せ、セバスチャン? ああ、若様のことですか? さあ、若様は、先日、王都の寄宿学校へご入学遊ばれて以来、旦那様も、私たちもお会いしておりませんので・・・・・・」
「そうなの・・・・・・」
ため息をひとつ。
「あの? ひとつお尋ねしてよろしいでしょうか?」
おずおずと青年が質問をする。
「あなた様は、旦那様と、その、どのような?」
「どのようなって・・・・・・」
そんなことを改めて尋ねるまでもなく、わかるでしょ? 普通、若者よ!
すこし間があって、
「あ、いえ、失礼いたしました・・・・・・」
この青年、すこし察しが悪いようだ。
「あの、その、あなた様は、若様のことをご存知なのですか?」
「え? どうして?」
「あの、その、先ほど、呼び捨てになさいましたので・・・・・・?」
すこし考えるかのような間があって、
「ああ、そうか、ええ、そうよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
何かを待っているかのような間、そして、何も答えたくないという頑な沈黙。
ハァ~
今、ここにシルフさんがいてくれたらな。
エリオットと青年の会話に、適切な解説をしてくれただろうに・・・・・・
もしかしたら、今までの一連の会話の中から、なにか思わぬ事実を取り出して、オイラに教えてくれたかもしれない。
はやく、シルフさん、戻ってこないかな~