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新月の夜 2

 オイラたちは、中庭を横切り、礼拝所の窓から死角になる場所で、話を始めた。

 すくなくとも、レオンの視界の中ではあるのだから、こんなところで、シルフさんと話したりすれば、レオンに不審がられたりするだろうに?

 女の子たちからヘンに思われるよりも、レオンに不審がられるのなら、構わないってことなのだろうか?

「ねぇ? なんで、シルフさん、ボクとお話できるの?」

「ふふふ、さあ、何ででしょう?」

 ジョゼフィーヌの髪がさらさらと揺れた。

「ボク、初めてだよ。お話のできる精霊さんに出会うなんて。前にお父様が、ジンだとかの上位精霊と話したことがあるなんて、自慢げに言っていたことがあるけど・・・・・・」

「あら、ってことは、私、上位精霊並ってことね」

「そうだねぇ~ ねぇ? どうしてしゃべれるようになったの?」

「ふふふ、どうしてでしょうね?」

 なんか、シルフさん、わざと話をはぐらかしてない?

 シルフさんが話をはぐらかすたびに、オイラをつかんでいるジョゼフィーヌの手、力が入って、すごく痛い・・・・・・

「ねぇ? シルフさんって、魔法が使える? 精霊魔法とか?」

「ふふふ、さあ、どうかしら?」

 って、あの、ジョ、ジョゼフィーヌさん? オイラを締め付ける力がさらに加わって、非常に痛いのですけど・・・・・・

「お父様がジンとお話したとき、契約して、風の精霊魔法を使えるようになったらしいから、シルフさん、ボクとも契約して、精霊魔法を教えてほしいなって思ったりもするのだけど・・・・・・」

 媚びるようにシルフさんのいると思われる空間を見上げたりして。

「・・・・・・」

 シルフさん、返事なし。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・シルフさん?」

「・・・・・・」

 オイラ、雑巾になった気分、締め付けられて、両手でねじられて・・・・・・・

「ごめんなさい。そういうの、私分からないから。また今度にしてくれるかしら。うふふ」

――チッ!

 って、今、ジョゼフィーヌ舌打ちしなかったか?

「そう、分かった」

 ジョゼフィーヌ、中庭側から、バルコニーを通って、乱暴にオイラを掃除道具入れに放り込んで、礼拝所の扉の方へ去っていった。

 ふぅ~ 助かった・・・・・・ ようやく、あのキリキリと締め付ける力から解放された。

 まだ子供だというのに、すごい力だ。そういえば、こないだは一撃でレオナルドを倒したっけ。

 一体、ジョゼフィーヌって・・・・・・

 それはそうと、ここって、このカビ臭い場所って・・・・・・!?

 く、屈辱だぁ~!!!

 オイラの頭の中で誰かがケタケタ笑っている声が聞こえていた。


 オイラは、誰にも見られないように警戒しながら、掃除道具入れを抜け出した。

 このまま中庭へでたら、レオンに見つかってしまうだろう。

 ここは、やっぱり、礼拝所の扉の陰から、中の様子を覗いている方がよいかも。

 幸い、両手に大量の荷物を抱えていたトマスがキチンと閉めていかなかったので、半分開いている。

 今日も地理の授業をエリオットは行っていた。

 今日は山々の話。

 大地の神の娘たちが封じられた13の山々を順に紹介している。

 大地の神は、5人の息子たちと娘を河に封じ、13人の娘たちを山に封じたのか・・・・・・

 すごい子沢山だね。

「全部同じ母親の子供なのかしら? 大地の神様の奥さんって大変よねぇ~」

 ああ、まったくだ。


 礼拝所の暗い隅で、今日もフィオーリアが一人ぽつねんと座っている。

 エリオットの説明を聞いているのか、いないのか。眠そうな目をして、頬杖を突いている。

 で、その隣には・・・・・・ジョゼフィーヌ!?

 なぜジョゼフィーヌが?

 実際に襲撃を企てるほど、憎んでいたのじゃないのか?

 なぜ、よりにもよって、フィオーリアの隣に座っているのだ!

 さっきは窓際に席をとっていたはずなのに、わざわざなんでこんな暗い場所へ?

 オイラが疑問に感じて眺めていると、ジョゼフィーヌが、なにか暗い炎が燃えているような瞳をして、フィオーリアの方を見た。

 すると、ジョゼフィーヌがもごもご口の中でなにかを唱え始めた。

 それを耳にした途端、フィオーリアがハッと顔を上げ、隣のジョゼフィーヌを見る。射抜くような鋭い視線で。

 でも、すぐに興味をなくしたのか、さっきと同じ姿勢で、つまらなさそうに頬杖を突く。

 一体、二人に何が?

 また、ジョゼフィーヌが口の中でもごもごいい始め、フィオーリアが反応するのだけど、すぐにまた、元の姿勢に戻るなんてことが、さらに3度続いた。

 やがて、

「ちょっとアンタ、どういうつもり? その中途半端な呪文を唱えるのやめなさい。うるさくて、気が散るわ!」

 仏頂面で、フィオーリアが抗議の声を上げた。

「えぇ!? なに? 私、どうかした?」

 ジョゼフィーヌは、怯えたかのような表情を浮かべて、あごの下に両こぶしを当てる。

 でも、その目は明らかに、挑戦的な光を宿しているのだけど・・・・・・

「いい、アンタ、ファイアーボールの呪文のつもりかなにかしらないけど、『ポリョニゲルンム』の『ニ』の発音は、限りなく『イ』に近い発音をしなくちゃいけないし、最後の『ムンディア』は『ヌンディバ』に近い発音じゃなきゃ、火球発生しないのよ!」

「・・・・・・」

「アンタの発音じゃ、一生かかっても、ファイアーボールなんて、打つことは無理ね!」

 そこまで言って、礼拝所中がシーンと静まり返っていることに気がついたみたい。

「フィオーリア、なに?」

 エリオットが、眉根をもみながら、フィオーリアを見ている。どうみても、フィオーリアは痛い子だった。

「ああ、また、東の山の魔女さん、暴走しちゃってるよ・・・・・・」

 誰かが、そうつぶやいて、子供たちがドッと笑い声を上げた。

「フンッ! いつか、アンタなんか、スズメにでも変えてやるんだから!」



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