新月の夜 1
また、フィオーレ神殿の学校の日がやってきた。
今日は珍しくレオナルドがお休みで、いつもの一悶着もなく、フィオーリアが礼拝所の暗い隅をすんなりと確保することができた。
一方、反対側、光が燦々とあたる窓際では、日光を盛大に反射する金髪を揺らしながら、ジョゼフィーヌがジェシカたち女の子グループとにぎやかにおしゃべりしあっている。
部屋中の子供たちの視線は、どうしてもそちらの方へ集まり、そのことも意識しているせいか、声や振る舞いにさらなる華やかさが増しているような。
一方、中庭では、レオンが井戸を背に座り込み、大剣を抱え込むようにして、油断なくあたりの気配をうかがっていた。
「一体、このレオンとか、ジョゼフィーヌとか、何者なんだろう?」
「そうね、何者なのかしらね? ちょっと不気味だわね」
「ああ、レオンは、絶対ただの冒険者なんかであるはずないし、ジョゼフィーヌもヘンだ」
「うん、そうね」
「大体、なんで、フィオーリアを襲撃する必要があるのか? ただのフィオーレ神殿の拾い児・養女にすぎないのに・・・・・・」
「ホント、ヘンよねぇ~?」
「ああ」
この3日、オイラとシルフさんとの間で何度も交わされた会話が、またオイラたちの間で交わされる。
と、不意に、窓からジョゼフィーヌが上半身を突き出した。
レオンの方に軽く手を振る。
レオンも手を上げて、それに応えた。
「ホント、こうして、近くで見ると、すごくかわいい女の子なんだけど・・・・・・」
シルフさんが感嘆のこもった声をつぶやいた途端、ジョゼフィーヌ、シルフさんのいるあたりを見た。
目がまん丸に見開かれている。
「え? だれ? だれかそこにいるの?」
「・・・・・・!?」
「・・・・・・!!」
シルフさんの驚いている気配がする。
「えっ? ジョゼフィーヌちゃん、どうしたの? なにかあったの?」
部屋の中から、他の女の子の声が聞こえてきたけど、振り返って、胸の前で小さく手を振って、
「あ、ううん、なんでもないの。なんでもないの」
また、シルフさんのいるはずの方向をむいて、ふっとオイラに気づいた。
「あ、ちょっと用事してるね?」
「え? 用事?」
さっきの女の子の声だ。
「トマスお兄ちゃんが、箒、片付け忘れてるみたいだから、私、代わりに片付けてくるね」
なんて言いながら、一旦、窓から姿を消す。
「はーい。ふふふ、ホント、トマスお兄ちゃんって仕方がない人ね。また箒を片付け忘れるなんて」
などと、女の子たちがおしゃべりし合っているのが、窓から聞こえてきているのだけど。
これって、もしかして・・・・・・?
い、いやな予感が・・・・・・
しばらくして、礼拝所の横手から、ジョゼフィーヌが現れてきた。
オイラを見つけ、引っつかむと、小声で辺りに話し始める。
「だれ? さっきここで話をしていたのは、だれ? 妖精さん? それとも、精霊さん?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
たぶん、ジョゼフィーヌはシルフさんの声が聞こえていたのだろう。さっきの様子からすると。
「そうね、私の方だったかもね」
「え? だれ? 私の方ってなに?」
少なくとも、シルフさんのように、オイラの思考を読み取るってことは出来ないようだ。
「ん? あら、こんにちは。ジョゼフィーヌ」
「こんにちは、君は、ボクの名前を知っているんだね?」
・・・・・・ボ、ボク?
「ええ、一昨日もここにいたもの」
「そうなんだ。君はだれ?」
「私? 私はシルフ」
「シルフ? じゃ、風の精霊さんだ」
「ええ、そう」
「あれ? でも、風の精霊のシルフって、下位精霊だから、こんな風にお話なんてできないはずなのに?」
「ん? そう? でも、私はできるのよ。特別だから」
「へぇ~ そうなんだ。すごいね」
と、不意に、窓から女の子の一人が身を乗り出してきた。
「ねぇ? ジョゼフィーヌ、さっきから、だれとお話をしてるの?」
「え? あ、ちょっと独り言。気にしないで」
「フーン」
納得できないって顔で引っ込んでいったけど、中で女の子同士「ヘンなの」って言い合っているのが、丸聞こえ・・・・・・
ジョゼフィーヌも気まずい思いをしているみたいで、
「シルフさん、ちょっと向こうへ行こう?」
中庭の方へ誘っていった。
「ええ、そうね」
って、誘うのはいいのだけど、だからって、オイラを引っつかんで振り回すのはやめてくれないか?
いくら、女の子たちにヘンな目で見られたのが不愉快だからって、オイラを振り回して、中庭の植物の葉っぱに八つ当たりしなくても・・・・・・
め、目がまわる~~~!!!