神の娘、光の少女 11
しかし、あのレオンって一体なにもの?
一薙ぎでファイアーボールを消し去るなんて、もっているあの大剣は魔剣だってことだ。
魔剣は、国のあちこちの古代遺跡から、探検家たちが持ち帰ってくることもあるが、その名のとおり、魔力が封じられた剣のこと。
普通の剣では、ファイアーボールを斬っても、まったく役に立たない。大体、火などという実体のないエネルギーの塊が相手なのだ。剣ごときで対抗できるはずなんてない。
でも、魔力の封じ込められた魔剣なら、さっきレオンがしたみたいに、魔法を無効化し、ファイアーボールなどの攻撃魔法に対抗することが出来る。
なら、だれもが魔剣を持ち歩き、攻撃魔法にそなえればいいのだが・・・・・・
実際に、魔剣を持ち歩く人間などいない。
ひとつは、魔剣とは滅多に手に入らない貴重な代物であるから。
古来から旧家に伝わる家宝であり、古代遺跡でときどき見つかることのある遺物である。非常に高価なものなのだ。
また、魔剣は、聖剣にも妖刀にも変わる恐ろしい剣でもある。
剣に魔力が込められているため、その所有者は、その魔力に対抗するだけの体力や剣技、そして、精神力が求められる。もし、これらのうちのどれかが欠けていれば、たちまち魔剣に精神を蝕まれ、体を乗っ取られ、狂戦士・バーサーカーと化して、無差別に人を襲うようになってしまう。
一方、魔剣をキチンと操ることが出来るのなら、その魔力の持つ効果によって、本来よりも、高い体力であったり、力量を発揮することができ、戦闘シーンで大活躍することも可能になるのだ。
東方の国では、聞くところによると、奴隷たちに魔剣を与え、わざと精神を乗っ取らせて、バーサーカー化させ、戦場に投入する狂戦士部隊などというものがあるらしいが、この国では、幼少の頃より、鍛錬を積み、精神修養を重ねた聖騎士たちのみが、魔剣を所持することがゆるされている。
であるのに、冒険者風情に過ぎないレオンが、なぜ魔剣を所持しているのだろうか?
ああ見えて、実は、魔剣に心を乗っ取られたバーサーカーなのだろうか?
でも、そうは見えないが?
それとも、もとはキチンと聖騎士並の修行を積んだ人物で、何かの事情で身を持ち崩し、冒険者になっているとでもいうのだろうか?
レオン、一体、何者なんだ?
その晩、遅くに、シルフさんが戻ってきた。
なんでも、レオンは、今晩あったことをありのままに、ジョゼフィーヌに報告したのだが、ジョゼフィーヌはそれを信じなかったようだ。
大体、姿の見えない魔法使いがフィオーリアを守っていて、自分の暗殺計画の妨害をしてきたなんて報告では、オイラだって、そうそう信じたりはしないだろう。
やはりジョゼフィーヌは、レオンがやりたくない仕事をしなかった言い訳として、適当なことを言っているだけだととったようだ。
もちろん、レオンのいる場では、そんなことをおくびにも出したりはしなかったけど、自室で一人きりになったとき、声を殺して、不満をウサギのぬいぐるみのひとつにぶつけていたという。小刀を引き抜いて、切り裂き、ズタボロにするという方法で。
一方、レオンの方も、ジョゼフィーヌが自分の言葉を信用していないということに勘付いていたみたいだが、なにも口にせず、だまっていた。
レオンの襲撃は、翌日の晩も行われ、ほとんど同じような経緯を辿った末、撃退することに成功した。
もう、レオンはジョゼフィーヌにありのままを報告するなんてこともせず、襲撃が失敗したとだけしかいわなかった。
もちろん、その晩も新たなウサギのぬいぐるみが被害を受ける羽目になったのだが。