神の娘、光の少女 4
「あーら? なに、あれ?」
突然、オイラの頭の中に声が響いた。
フィオーリアの方は、また再び祈祷台の影で座り込み、印を結びなおしている。本人が言っているように、魔力を鍛えているのだろうか?
でも、今オイラの頭の中で聞こえてきた声に対しての反応はなにもない。フィオーリアには聞こえていないのだ。
「あ、シルフさん、もどってきたんだ。ついさっきまでフィオーリアがトマスをいじめて遊んでいたんだよ」
「あら、相変わらず、おいたさんね、かわいい顔して、ふふふ」
おいたさん・・・・・・
まあ、いたずら小僧(小娘?)であるのは確かだけど・・・・・・
でも、相当根性がひん曲がっている。
「で、向こうはどうだった? なにか面白い話、聞けた?」
「ううん、特にこれといってなかったわね。エリオットの部屋でガシューと二人でお茶のみながら、いろんなこと話していたけど。お互いの健康の話とか、商売の話とか、町の噂だとか、そんなのばかり」
「そう」
「あっ、そうそう、今度、どこかの家からガシューのところで小さな子供を預かることになったから、勉強を教えてほしいとか、なんとか言っていたわよ」
「ん? そう。じゃ、フィオーリアに新しい仲間ができるんだね」
「うん、そうみたい」
「どんな子だろうね? 男の子? 女の子?」
「う~ん・・・・・・ 話からすると、女の子みたいだけど」
「そ、ならよかった。レオナルドみたいな乱暴な子は、もうこりごりだから」
「ふふふ、そうね。あんたも保護者の役回り大変ね」
「うん、そうだね。ハァ~。もし、ご主人が戻ってこられたときに、フィオーリアが怪我でもしてたら、オイラの命がいくつあっても足りないだろうな」
「ふふふ」
愉快そうな声をのこして、オイラの毛のまわりをそよ風が吹きすぎていった。
オイラは周りに人目がないことを確認してから立ち上がり、トコトコとトマスが開け放していった入り口の方へと移動していく。
入り口の扉の陰から、神殿の居住部へと続く廊下に人影がないことを確認して、外へでる。
ずっとフィオーリアの近くにいたので、薄暗い礼拝所に慣れた目には、中庭の窓から差し込む明るい光に照らされた廊下は、痛いほど輝いて見えた。
「うわっ、まぶしっ!」
思わず、掃除道具入れの方へ2,3歩よろける。
その途端。
フギィーー!!!
足元から、ものすごいうなり声が聞こえてきた。
この声は・・・・・・ペーター・・・・・・
初めて出会ったあの日以来、オイラのことを警戒しまくりで、見かけるたびに、大きなうなり声をあげて威嚇してくる。
あれ以来、何年も経っているのだから、いい加減、慣れればいいのに、このバカ猫は!
オイラは身動きせず、ジッとその場に立ったままでいた。いつもならジッとしていると、すぐにペーターはシッポ巻いて逃げて行っちゃう。
でも、オイラと一緒に外へ出てきた者は、そういう穏健な考えを持たないみたいで・・・・・・
突然、ペーターの周りで空気が渦を巻き始めた。
ペーターのひげが、風に吹かれて、大きくしなり、急に、耳から首筋、背中、尻、シッポへと強い風が吹きぬける。
ペーター、オイラの姿が目の前にあってギョッとしていたのに、風が自分の体をいたずらしたものだから、たちまちパニックになった。
ギャッ!! と短い悲鳴を上げて、1メートル以上垂直ジャンプ、着地と同時に、4つ脚を踏ん張り、毛を逆立てて、オイラを鋭い目でにらんできた。
こういうときは、ヘタに動いたりしたら、鋭い爪が一閃してくるんだよねぇ~ 経験では。
そこへ、騒ぎを聞きつけた哀れな犠牲者が一人。
「こらっ! ペーターなにやってるの? さっきのトマスをいい、ペーターといい、一体なんなの?」
エリオットが廊下を曲がって、近づいてくる。そして、しゃがんでペーターの背中を・・・・・・
「痛ッ! ペーターなにするの!」
手の甲に赤い血の線を二本走らせたエリオットは、一目散に逃げていくペーターに抗議の声をあげた。
その抗議の声に構わず、ペーターは一刻も早くその場を去りたい一心で、逃げていくのだった。
「ったく、一体なんなのかしら?」
やがて、エリオットは、手の甲を押さえたまま、オイラのいる方へ近づいてきた。
いつもながら、オイラは正体がばれるのではないかと、ヒヤヒヤしながら、身を硬くしているのだけど、エリオットは、オイラをつかみ、持ち上げて、下になにもないことを確認して、首を振るのだった。
「なにもないじゃない。ホント、ヘンな子」
それから、オイラを使って、廊下の隅を軽く掃いたあと、掃除道具入れへしまった。
く、屈辱だぁ~!!!
どこかで、誰かがクスクス笑っている声がずっと聞こえていた。




