神の娘、光の少女 2
「トマス、アンタ、東の野原のレグフォーン牧場へ行って、搾りたての牛乳をもらってきなさい!」
「な、なんで、俺が!? 牛乳がほしいなら、自分でもらってくればいいだろ? ちょうどいい運動になるだろうし・・・・・・」
「ああん? アンタ、こんなかわいらしい美少女を、一人であんな人気のないとこへおつかいにやるつもり?」
確かに、村の近くだとはいえ危険すぎる。
「ああ、分かったよ。一緒についていってやるよ。ならいいだろ?」
でも、それではフィオーリアには気に入らないことだったみたいで。
「なに言ってるのよ! 今日みたいな晴れてる外の光は、女の肌の敵だって言ってるでしょ! どうして、こんな陽射しの強い日に、あたしが外を出歩かなくちゃいけないのよ!」
「お、お前なぁ~」
「今、外でキャッキャ言って走り回ってるジェシカを見てなさい。あんなに真っ黒に日焼けしちゃって。フンッ! あと30年もしたら、顔中シミだらけになって、とても見られた顔になってないから」
「・・・・・・」
「こういうのは、ほんのちょっとでも油断してはいけないの。ちょっとの油断が取り返しのつかない悲劇を生み出したりするものなのよ」
「って、なにがこういうのだよ」
トマスのまぜっかえしを無視して、
「アンタ、エリオットの素顔を見てみなさいよ。アンタの百年の恋も、エリオットの化粧していないすっぴんの顔をみれば、いっぺんにどこかへふっ飛んでしまうわよ」
「な、な、な、なんのことだ!? どうして、お、俺がお師匠様を・・・・・・」
うろたえているトマスをジト目で眺めまわし、馬鹿にしたようにフンッと鼻をならした。
それから、ナニを思ったのか、小さな桃色の唇を軽く舌なめずり。
祭壇脇の壁に立てかけているオイラから見ても、実に邪悪な目つき。
「アンタ、バレてないとでも思ってたの? いつも、あんなに熱心にエリオットのこと見つめてるくせに。アンタを見てると、いつかバカなことをしでかすんじゃないかって、毎度ハラハラしてるのよ」
「う、ううう・・・・・・」
「そうね、エリオットは、アンタのことは、ただの司祭見習いとしてしか、見ていないみたいだし、正直、全然眼中にないって感じだものね。かわいそうにね。うふふ」
トマスの目尻に光るものが・・・・・・
「エリオットにすれば、10以上も年下のアンタなんか、圏外同然だもんね。それに、今は、ちゃんと夢中になっている相手がいるしね」
「・・・・・・」
トマス、顔色が青い。
「アンタだって、気がついてるんでしょ? 新月になったら、どこからか訪ねてくる黒マントの男」
「お、お師匠様・・・・・・」
「こないだの新月の晩、あたし、エリオットの部屋で眠ったフリして、あいつが黒マントとマスクをとるのを見てたのだけど、あの黒マント、30ぐらいの細身で浅黒い肌の結構いい男よ。アンタの何十倍もダンディだったわ。エリオットも案外見る目あったのね。あたし、ビックリしちゃった」
「・・・・・・」
「で、そのあと、あの二人、部屋にこもって、なにしてたと思う?」
実に悪魔的な微笑。見るものの背筋を凍らせる。
「あの二人ね・・・・・・」
「わ、わぁー! わぁー! わぁー!」
両耳をふさぎ、トマスが突然叫び始めた。
「わぁー! わぁー! やめてくれ! 絶対聞かない、聞きたくない! わぁー!!」
「あの二人ね・・・・・・」
「わぁー! わぁー! わぁー!」
「・・・・・・」
「わぁー! わぁー! わぁー!」
「・・・・・・(ピキッ)」
「わぁー! わぁー! わぁー!」
「・・・・・・(ピキピキッ)」
「わぁー! わぁー! わぁー!」
とうとう、フィオーリアの堪忍袋の緒が・・・・・・
「う・る・さ・い・っ・!!」
でも、その声に答えたのは、
「わぁー! わぁー! わぁー!」
両耳を押さえたトマスの叫びだった。