表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/54

川下り 7

 日が暮れた。

 オイラは、こっそりと掃除道具入れから抜け出して、夜の道へ出た。

 小さな人間たちへの授業が、一日二回、午前と午後の一回ずつあり、まったく同じ内容の授業を繰り返していた。

 もちろん、午前と午後とでは、メンバーが違って、午後からの人間たちの方が、すこし体格が大きかったようだ。

 オイラは、飽きもせず、同じ授業を聴き、すっかりアルファベットというものを覚えてしまった。

 もともと言葉は理解することができるし、さらに、文字とその発音まで覚えたならば、ご主人の小屋にある書物を読み解くことが出来るに違いない!

 オイラはそう考えて、ワクワクしていた。

 思わず、石畳の道をスキップしてしまう。

 箒のスキップ。

 まるで、道を掃き清めているかのようだ。

 けれど、なかなか進んでいけない。行けども行けども、まだまだ先の道のりがある。

 村を抜け、道を離れて、川沿いをすすみ、星明りを頼りに河原を歩いていく。

 オイラたちは、川をずっと流れ下って、村までやってきた。

 ということは、この川に沿って、上流へ上っていけば、ご主人の小屋まで戻れるはず。

 だから、河原伝いに行くのがよいのだろうが、石がゴロゴロしていて、歩きにくい。

 時間がかかるわりに、距離がかせげなかった。

 ともかく、早く小屋まで戻らないといけないし、早く小屋に戻りたい!

 気ばかり、急く。

 急がなきゃ!

 しだいに疲れで足が重くなり、なかなか次の一歩が踏み出せなくなる。

 川を吹き渡る夜風は気持ちいいが、今はそれどころではない。

 やがて、疲れがピークに達し、オイラは、近くの岩かげに座り込んだ。

 かなりの時間を歩いてきたわけだし、相当な距離をこなしたはず!

 でも、振り返ると、月明かりに照らされて、遠く小さくフィオーレ神殿の尖塔の影が見分けられた。

「う~ん・・・・・・」

「あら? どうしたの? なにか考え事?」

 シルフさんの声が聞こえる。

「なんか、河原を歩くのって、時間かかるというか、疲れるのだけど・・・・・・」

「それは、そうでしょうねぇ~ こんなに、大きな石がゴロゴロしているのだし」

「うん、もっとこう、早く歩いていく方法ってないのだろうか?」

「ん? それなら、人間が作った道を使えばいいじゃない?」

「ああ、でも、それだと、川と別の方向へ道が伸びているから、ご主人様の小屋へどういけばいいか分からなくなっちゃいそうで・・・・・・」

「それも、そうね」

「だから、考えているんだ」

「ふーん、飛べないって、不便ねぇ~」

 ちょっぴり、困惑気味の声。

「ああ・・・・・・」


「私なら、ビューンって飛び上がって、一気にあの小屋まで行っちゃえるのだけど・・・・・・」

「いいなぁ~ シルフさんは」

「ふふ、いいでしょう?」

「ああ、いいなぁ~ もっとも、ご主人がいれば、オイラだって、空を飛べるんだけどな」

「あら? そうなの?」

「うん、なんてたって、オイラ、魔女の箒なんだし。ご主人に魔力を込められているからね」

「へぇ~ そうなんだぁ~」

「ご主人が、オイラに呪文をとなえれば、オイラの体が勝手に浮き上がって、とんでいけるのだけど・・・・・・ ご主人がいればなぁ~」

 シルフさん、なにか気づいたみたい。

「ん? 呪文? 呪文を唱えさえすればいいの? 飛べるの?」

「ああ、飛べるよ」

「どんな呪文? アンタ、魔女の呪文、覚えてないの?」

「ん? 空を飛ぶたびに、何度も聞かされたから、全部とっくに覚えちゃってるよ」

 オイラ、魔女が唱えていた呪文の前半分をつぶやいてみせた。

「ねぇ? なら、アンタ、自分で呪文を唱えてみたらどうなの?」

「え!?」

「自分で呪文を唱えれば、飛べるんでないの?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 かなり長い間、沈黙が続いたと思う。

 考えたことすらなかった。オイラが魔法を使ってみる、魔法の呪文で空を飛ぶ、なんて。

「で、どうなの? やれそう?」

「そ、それは・・・・・・」

 オイラ、戸惑っていた。

 も、もし、オイラが魔法を使ったりしたら、使ったことが知れたりしたら、ご主人様を不愉快にさせたりすることはないのだろうか?

 きつく当たって、オイラを折檻したり、消したりすることはないのだろうか?

 オイラ、折角、魔法でとはいえ、命を得たのだから、ぜひとも長生きしたい。

 つまらないことで、この命を失ったりしたくない。

 今、疲れたというだけで、なかなか小屋へ戻れないっていうだけで、魔法生物の分際で、魔法など使っても大丈夫なのだろうか?

 すごく、すごく心配になった。

 あ、いや、それでも、このペースで河原を歩き続けるのであれば、今日・明日中に小屋にたどり着くなんて、不可能かも知れない。

 大体、途中、あの滝があったわけだし。オイラ、あの滝のあった崖なんて、登れる自信ないし。

 そのとき、ハッと気がついた。

 そういえば、もし、今晩のうちに小屋に戻れなければ、畑の魔法植物たち、本当にピンチになるに違いない。

 雑草たちに栄養や魔力を全部吸い取られ、枯れてしまうに違いない。

 そうなれば、ご主人が戻ってきたときに、確実に、オイラ消される!

 役立たずのただの箒に戻される!

 柄を寒気が駆け上がった。

 是が非でも、今晩中にもどらなければ・・・・・・

「で、どうなの? 空をとべるの?」

「わ、わからない。や、やってみる」

 そういえば、オイラ、魔法を使った後のことばかり心配していたけど、そもそも、オイラの呪文で、空を飛べるかどうかなんて、わからないんだよねぇ~

 それが今、一番の問題だというのに!

 なんで、そのことを心配しないのだろう?

 オイラ自身、すごく不思議に感じた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ