表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/54

川下り 3

 シルフさんの話によると、オイラよりも先を流れていった箱舟、あの赤ん坊を乗せて、どんどん川を下っていったらしい。

 やがて、川沿いに堤防が築かれて、その堤防の向こうに石造りの尖塔が見える場所までやってきた。

 川幅は、ますます大きくなり、流れもゆったりとした感じ。

 その尖塔はなんだろうと、気になり、シルフさんが見にいくと、川沿いの小さな町にあるどこかの女神様の神殿。

 一通り、神殿の中や外を見て周り、町をあちこち眺めてから、川まで戻ってきてみると、二人の川漁師が乗った小船が、すでにその箱舟を見つけていて、中から赤ん坊を抱き上げていた。

 シルフさんは、これはいけないと必死に抵抗したのだけど、所詮は、風の精霊。人間たちにかなうはずもなくて、というより、人間たちシルフさんに全然気づきもしなかった。

 赤ん坊にしたところで、キョトンと、自分を抱き上げている人間たちを見上げているばかりで、不満そうに泣きもしない。全然おびえている様子もない。

 同じ人間同士だから、警戒心も湧かないのだろうか?

 漁師たち、赤ん坊を抱き上げて、話し合っていた。

「おい! どこの子だべ? こんな船で流されてよ!」

「捨て子じゃなかんべか?」

「そうかのう?」

「じゃ、なきゃ、なにかの拍子で流されちまったか」

「う~む。捨て子じゃったとして、こんな箱に入れて、川へ流すなんて、ひどい親もあったもんじゃ」

「だのう。ともかく、この赤子、どうすっぺ? 一旦、見つけちまったし、また、船に乗せて流すってわけにもいかんじゃろ?」

「そうじゃのう? おまんさとこはどうじゃ?」

「おいか? 無理無理。おい夫婦と子が5人、老いぼれが二人もいたんじゃ、いまでも食いつなぐのでカツカツじゃ。そういう、おまんとこは?」

「バカいうでね。独り身だっつうの知ってんでねぇけ」

「ははは、そだの」

「ともかく、岸さへ戻って、フィオーレの神殿の司祭さんに相談した方がよかんべ?」

「んだ、んだ。それがよかんべ」

 などと相談しながら、船を岸に戻し、赤ん坊を連れて行ってしまったそうな。

 陸に上がった漁師たちが向かったのは、先ほどシルフさんが見物に行った尖塔の神殿。

 漁師たちの言葉に従えば、フィオーレの神殿ってことになるのだろうか?

 赤ん坊と漁師が、神殿の中に入ったのを確かめて、シルフさん、オイラを探しに戻ってきたってわけらしい。


「そうか・・・・・・」

 まあ、漁師たちの話の内容からすると、あの赤ん坊を保護するために、神殿へ連れて行ったのであって、赤ん坊に危害を加えるおそれはないだろう。

 もともとオイラたちでは、面倒を見ることができなかった赤ん坊。漁師たちが世話を焼いてくれるのであれば、オイラとしては、願ったりかなったり・・・・・・なのかも?

 ともかく、赤ん坊がどのように扱われているのか、キチンと面倒を見てもらえる環境かどうか確認して、それから小屋へ戻ることにしよう。

 オイラたちは、さらに、川を流れくだり、尖塔が見える堤防の町までやってきた。

 シルフさんに岸辺へ吹き寄せてもらい、上陸した頃には、あたりは夕闇に包まれていた。


 シルフさんの声の案内に従い、物陰伝いに町の中を神殿へ向かう。

 さすがに、夜とはいえ、道の真ん中をオイラが堂々と歩き回るというわけにも・・・・・・

 人間に見つかったら、すぐ化け物がいるなんて、追い回されちゃうよ。

 なんとか、神殿の前まで、人間に見つからずにやってこれはしたのだけど、あいにく、神殿の入り口は、しっかりと閉じられていた。

 オイラは途方にくれていた。だけど、シルフさんがあたりを見て回り、神殿の裏窓から、明かりがもれているのを発見した。

 オイラも、細い路地を抜けて、裏手へ。

 途中、ゴミ箱の上で寝ていた猫が、オイラの姿に驚いて、毛を逆立てて牙を向く。そして・・・・・・

「ウーウーウー!!!」

 爪をギラリと光らせながら、低音でうなりだす。

 オイラ、構わずその場所を通り抜けても良かったのだけど、ちょうど、オイラの右手、神殿横の部屋に明かりがともり、窓が開いた。

「こら! ペーター、なに騒いでるの! そんなところで、騒いでないで、おうちへ入りなさい!」

 そのペーターと呼ばれた猫、神殿の飼い猫だったみたい。しばらく、オイラを油断なくにらみつつ、 ひらりと開いた窓枠に飛び乗り、部屋の中へと消えていった。一方、神殿から猫を呼んだのは、少年だった。その少年、窓から差す明かりに照らしだされたオイラの姿を見、不思議そうに首をひねっている。

「あれ? おかしいなぁ~? 箒は全部片付けたはずなのに・・・・・・」

 慌てて、窓から首をひっこめ、すぐに、オイラのいる路地に面した戸口から、出てきた。

 貫頭衣というのだろうか、トーガ風の衣服を着た、モジャモジャ赤毛の少年。

「司祭様に見つからなくてよかった。また、ちゃんと片づけしてなかったって、叱られちゃうところだったな。あぶない。あぶない」

 その少年、独り言をつぶやきながら、オイラの柄をぐいとつかむと、乱暴に肩に担ぎ、出てきた扉から、中へ戻り、小さな庭を横切って、廊下脇の小さなロッカーにオイラを突っ込んだ。

 かび臭いジメジメとした空間。オイラの隣にはホコリぽいモップや箒が。足元にはちりとりが。奥の方には雑巾が転がっている。

 ここは・・・・・・

 掃除道具入れ。

 く、屈辱だ!!

「あはは。やっと一番お似合いの場所に入れてもらえたのね。良かったね」

 シルフさんの愉快そうな声が。

「良くない! 全然、よくない!」

「あら? どうして?」

「オイラは、ここにいるやつらとは違うんだ! ちゃんと生きている魔法の箒なんだぞ! こんなやつらと一緒にするなんて、あのガキ、なに考えてるんだ! いつか、痛い目見せてやる! 覚えてろよ!」

「あらあら。まあ、大変ね」

 シルフさんの馬鹿にしたような声が、オイラの頭の中に響いていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ