川下り 2
オイラは、焦る気持ちを抱えたまま、川に流されていた。
両岸の景色はしだいに開けてきている。
川幅がさらに広がり、森は既に途切れ、人間たちが耕す畑が左右の視界いっぱいまで広がっている。
畑の片隅には、ご主人の小屋よりも大きな家が何軒か立ち並んでいる。
そして、ときには、川原に人間たちが集まり、じゃぶじゃぶと洗濯をしていたりする。あの赤ん坊よりも、一回り以上大きそうな子供たちが、何人も駆け回っていた。
よく見ると、何人かの人間は、あの赤ん坊ほどの大きさの赤ん坊を背負ってもいるようだ。
オイラは、そういう人間たちにジッと目を凝らし、背負っている赤ん坊の中に、あの赤ん坊がいないか探してみたのだが、もちろん、いなかった。
しばらくして、川面を渡る風が、オイラの長い柄をなでた。
「あっ! 見つけた! やっと見つけたわ!」
シルフさんだった。
「やあ! シルフさん! ずい分とお久しぶりだね!」
何時間かぶりかの再会。
「ちょっと、なによ、それ? いきなり皮肉?」
「ん・・・・・・」
赤ん坊を溺れ死にさせてしまったのだ、すこし荒んだ気分になっていたとしても、しかたがないだろう。
「それより、どこいってたの? 心配してたんだからね?」
「ああ、滝つぼの渦に巻き込まれてて、水の中からでられなかった」
「そ? やっぱり。何度も滝のあたりを探しても見当たらないから、もしかして、そうじゃないのかなって、思ってたの」
「ああ・・・・・・」
「ちょっと、心配してあげてるのよ! ありがとうぐらい言えないのかしら? ホント、心配のしがいがないわね!」
別に、心配してもらいたくはなかった。むしろ、ほっておいてほしかった。
「なに不貞腐れてるのか知らないけど、あんたも無事でホントよかったわ」
そうだった。オイラの考えていることは、シルフさんには、筒抜けだったのだ。
「参ったな」
「別に参ることはないわ! みんな無事だったんだし・・・・・・」
・・・・・・!?
「え!? みんなって、あの赤ん坊も?」
「ええ、もちろん。当たり前じゃない!」
オイラ、ホッとして体から力が抜けていった。
みんな無事だったんだ・・・・・・
でも、さっきの滝から落ちて、赤ん坊も無事?
ど、どうして・・・・・・
「落ちるのを阻止するまでは、私の力じゃ無理だけど、水面にぶつかって、粉々にならない程度に、転覆しない程度に下から支えてあげることぐらいなら、私にだってできるのよ!」
ちょっと自慢げなシルフさん。
「あ、ありがとう! ありがとう!」
オイラ、もし両手があれば、そして、シルフさんの体が触れれば、抱きしめて、口付けしたかった。
でも、どちらもないし、不可能な話・・・・・・
「ちょっと、アンタ、気持悪いわよ! ヘンな想像しないでよ!」
「ま、参ったな!」