『絶滅危惧種のヒーロー』
「お、若いの。今日もいい天気じゃな」
公園のベンチに座る甚八さんが、通りがかった僕に片手を挙げた。御年八十二歳。
「そうですね、甚八さん。じゃあ、ちょっと行ってきます」
僕は苦笑いしながら頭を下げ、足早に駅へと向かう。
平日の午前十時。世間一般では「若者」と呼ばれる25歳の僕は、今、この街で一種の絶滅危惧種、あるいは超レアモンスターのような扱いを受けている。
少子高齢化が極まり、総人口の三割が高齢者となった令和の日本。しかも、昼間は現役世代が都心のオフィスや学校に吸い込まれてしまうため、郊外のこの住宅街は完全に「シニアたちの楽園」と化していた。右を向いても左を向いても、おじいちゃんとおばあちゃんしかいない。
そんな街を、僕がリュックを背負って歩いているのだから目立つ。
「あら、翔太くん。これ持っていきなさい」
今度は向かいの家から、トメさん(七十九歳)が採れたてのトマトを握らせてくれた。
「あ、ありがとうございます」
「しっかり食べるのよ。これからの日本を背負って立つんだからね!」
重い。トマトも重いが、トメさんの期待の言葉が肉体的に重い。現役世代の負担増、なんてニュースを毎晩見るけれど、税金だけでなく物理的な「期待のプレッシャー」も三人分くらい背負わされている気がする。
駅前の商店街に入ると、さらにその熱気は増した。
かつてはシャッター街になりかけていた場所だが、今は見事に復活している。ただし、並んでいる店が独特だ。
ゲームセンターの看板には「脳トレ・メダル広場」と書かれ、中からは「よっしゃ! 確変じゃ!」と元気な声が響く。若者のたまり場だったはずのカフェは、今やゲートボール帰りのマダムたちの社交場だ。
「おい、翔太! ちょっと手伝え!」
地元の電気屋の店主(七十三歳)に呼び止められた。
「すまんが、このテレビを軽トラに積むのを手伝ってくれ。腰をやっちまってな」
「いいですよ。せーの、ほいっ」
二十代の筋肉をフルに使い、家電を積み込む。
「おお、さすが若者! 頼りになるわい。これ、お小遣いな」
渡されたのは、なぜかビタミンドリンクと、おばあちゃんがよく持っているタイプの塩飴だった。
街を歩くだけで、声をかけられ、物を貰い、頼りにされる。
最初は「年寄りばかりで退屈な街だな」なんて思っていたけれど、最近はちょっと面白くなってきた。何しろ、ここにいるだけで僕は「ヒーロー」になれるのだから。
今日も日本の未来のために……。




