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第9話 視界が繋がる時

作戦名は、シンプルだった。


《ライン・オブ・サイト》


射線。

視界。

それだけ。


地下マスターの拠点ネットワークを、

初めて実戦で繋ぐ。


出撃は、三拠点同時。


拠点A、B、C。

それぞれが互いの射程に入っている。


だが、

誰も前に出ない。


「配置、完了」


《オーバーサイト》の代表が、

淡々と報告する。


声に、無駄な高揚はない。


全員が、

“撃たない戦闘”を理解している。


――いい。


敵は、

中型ボス級の群体。


数が多い。

動きが速い。

近接圧が強い。


普通なら、

火力を集めて殲滅する。


だが今回は違う。


「接近距離、四十」


「三十五」


「三十――」


数字が、

三拠点から同時に上がる。


誰も慌てない。


「二十五で止める」


俺が言う。


「撃たない」


《了解》


射線が、

静かに重なる。


敵が、止まった。


正確には、

進めなくなった。


一歩踏み出すたび、

どこかの拠点から“見られる”。


撃たれなくても、

視界に入るだけで、

魔物は警戒する。


それが、

ダンジョンの性質だ。


「……包囲、完了」


誰かが、呟く。


でも、

誰も囲んでいない。


ただ――

逃げ道がないだけ。


敵が動けば、

別の拠点から射線がかかる。


近づけば、

拠点A。


逃げれば、

拠点B。


回り込めば、

拠点C。


火力は、

ほとんど使っていない。


なのに――

戦場は、完全に制御されている。


「……これが」


《オーバーサイト》の一人が、

小さく言った。


「ネットワーク、か」


一体が、

無理に突っ込んできた。


射線を無視して、

一直線。


「……撃つ?」


誰かが、確認する。


「撃つな」


即答した。


「退路を残せ」


射線を、わずかにずらす。


敵は、

その隙間に気づき、

逃げた。


一体、

また一体。


群体は、

自然と散っていく。


殲滅ではない。

排除だ。


戦闘終了。


死体は、少ない。


拠点の消耗も、ほぼゼロ。


弾薬消費、最小。


魔力消費、計測不能レベル。


「……やばいな、これ」


誰かが、正直に言った。


「火力、いらなくなるぞ」


「違う」


俺は、すぐ否定する。


「火力はいる」


「ただし――

 撃つ場所が変わる」


沈黙。


理解が、

ゆっくり追いついていく。


《オーバーサイト》代表が、

静かに言った。


「拠点が、

 “陣地”じゃない」


「視界そのものだ」


「だから、

 数を増やす意味がある」


正解だ。


「拠点が増えれば、

 死角が減る」


「死角が減れば、

 戦闘は起きなくなる」


「……戦わずに勝つ、か」


「違う」


俺は、首を振る。


「戦わせない」


端末に、

データが蓄積されていく。


射線重なり率。

接近停止距離。

心理的抑止反応。


全部、

ドラゴン戦に必要な数字だ。


まだ足りない。


だが――

確実に、前に進んでいる。


地上では、

この映像が切り抜かれ、

言われ始めていた。


《ダンジョンが変わった》

《撃たない方が強い》

《地下マスターの拠点、別ゲー》


俺は、

その反応を見ない。


今は、

地下の地図だけを見る。


「……次は」


呟く。


「視界を遮断してくる敵だ」


間違いなく、来る。


でも、それでいい。


構造は、

対抗されてからが本番だ。


地下で、

静かに次の準備が始まる。


世界はまだ、

気づいていない。


戦争の形が、変わったことに。


(第9話・了)

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