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第8話 射程の話をしよう

連絡は、一本だけだった。


匿名。

だが、文面はやけに整理されている。


《地下マスター様

 拠点の貸し出しについて、

 一度だけ正式に相談したい》


場所指定。

時間指定。

条件提示。


――拠点の座標ではない。


境界拠点。


分かっている。

分かっていて、このクランは選んだ。


「……物好きだな」


小さく呟いて、

俺は仮面を被る。


境界拠点は、

二つの拠点の“射程が重なる地点”にある。


安全性は高い。

だが、ここを選ぶのは珍しい。


普通は、

もっと奥を要求する。


「……来たか」


扉が開く。


入ってきたのは、五人。


全員、軽装。

全員、視線が遠い。


――遠距離特化。


一目で分かる。


先頭の女が、一歩前に出た。


「初めまして。

 クラン《オーバーサイト》代表だ」


オーバーサイト。

見張り、監視。


名前からして、

思想が透けている。


「今日は、勧誘じゃない」


彼女は、最初にそう言った。


「俺たちは、

 あなたを引き抜きたいわけじゃない」


……正解。


ここで「一緒に戦ってくれ」と言われたら、

即座に断っていた。


「聞かせろ」


短く促す。


彼女は、

壁に投影されたマップを指した。


拠点A。

拠点B。

拠点C。


それぞれが、

互いの射程に入っている。


「私たちは、

 火力より射程を重視してきた」


「理由は単純だ」


「近づかない方が、

 死なないから」


正直でいい。


「あなたの拠点は、

 “点”じゃない」


彼女は、はっきり言った。


「ノードだ」


「拠点が増えるほど、

 視界が増える」


「私たちは、

 その視界を埋めたい」


なるほど。


火力を試したい、じゃない。


構造を完成させたい。


「……で?」


俺は、少しだけ首を傾げる。


「条件付きでいい」


彼女は言った。


「唯一、

 私たちにだけ、

 拠点を貸してほしい」


静かになる。


重い言葉だ。


「条件を聞こう」


「三つ」


即答だった。


「一つ。

 主導権は、地下マスター」


「撤退判断を含め、

 作戦の最終決定権はあなた」


……いい。


「二つ。

 検証結果は公開していい」


「だが、

 拠点の設計思想には踏み込まない」


……分かっている。


「三つ」


彼女は、少しだけ間を置いた。


「私たちは、

 撃つために拠点を使わない」


「見るために使う」


一瞬、

胸の奥が静かになった。


「……理由は?」


「射程が通る場所は、

 戦場じゃない」


「安全圏だ」


「そこを撃ち場にした瞬間、

 崩れる」


――分かっている。


こいつらは、

分かっている。


俺は、しばらく黙った。


この条件を飲めば、

世界は一段、進む。


だが同時に――

俺の城は、

誰かに使われる。


過去の俺なら、

断っていた。


誰にも渡さない。


でも今は、違う。


「……唯一だ」


俺は言った。


「貸すのは、

 お前たちだけだ」


彼女の目が、

わずかに揺れた。


「理由は?」


「ロマンだ」


即答した。


「拠点は、

 見るためのものだ」


「それを理解してるのが、

 今のところ、

 お前たちだけだからな」


沈黙。


次の瞬間、

全員が、深く頭を下げた。


「感謝する」


「期待に応える」


「……期待はするな」


俺は付け加える。


「失敗も、

 全部映す」


「それでいい」


彼女は、笑った。


契約は、成立した。


地下マスターの拠点は、

初めて“他者に使われる”。


だが、

主導権は俺にある。


「一つ、忠告だ」


別れ際、

俺は言った。


「拠点が繋がると、

 死角は減る」


「でも――

 死角がゼロになると、

 逆に危ない」


「見えすぎるからだ」


彼女は、少しだけ考え、


「……肝に銘じる」


と答えた。


扉が閉まる。


一人になる。


「……始まったな」


これは、協力だ。


でも同時に、

実験でもある。


拠点が、

構造として、

どこまで通用するか。


その先にいるのは――

不滅の龍。


俺は、

地下の地図を見下ろす。


「……次は、視界を壊してくる」


間違いない。


だが、それでいい。


構造は、壊されてからが本番だ。


(第8話・了)

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