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第7話 定義の向こう側で

最初に燃えたのは、切り抜きだった。


《地下マスター、爆弾使用》


短いタイトル。

短い動画。


装甲のボスにドローンが突っ込み、

小さな爆発の連続で外殻が剥がれていく。


最後に映るのは、

仮面越しの一言。


――「重火器は、火器だ。爆弾は違う」


それだけ。


それだけなのに。


翌朝、

世界は少しだけ、騒がしくなった。


「ダンジョン内での爆発物使用について、

 政府は調査を開始しました」


ニュースキャスターが、

いつもより慎重な声で言う。


「これまで暗黙の了解とされてきた

 “重火器制限”の定義に、

 新たな解釈が生まれた形です」


画面の下に、テロップ。


《爆弾は重火器に含まれるのか?》


専門家が呼ばれる。


軍事評論家。

魔法研究者。

元探索者。


「重火器という言葉自体が、

 現実世界の軍事用語を流用したものです」


「火器とは、撃つための構造を持つ兵器を指す。

 爆弾は、通常そのカテゴリには含まれません」


「つまり――

 法的にも、想定外だった」


想定外。


それが、

今のダンジョンの一番危険な言葉だ。


ネットは、もっと正直だった。


《じゃあ今まで縛ってたの何だったんだ》

《ルールの穴じゃん》

《地下マスター賢すぎ》

《爆弾解禁はヤバい》


肯定と否定が、

同じ速さで流れていく。


《子供が真似したらどうすんだ》

《ダンジョン壊れるだろ》

《もう戦争じゃん》


不安は、

いつも“もしも”から始まる。


探索者ギルドの会議室は、荒れていた。


「爆弾は想定していなかった」


「だが、禁止もしていない」


「今から規制をかけるのか?」


「誰が?」


沈黙。


誰も、

“地下マスター”に連絡を取れていない。


顔も、

名前も、

所属も不明。


分かっているのは、

理屈だけだ。


「……彼は、ルールを破っていない」


誰かが、重く言った。


「ルールの“外”に立っただけだ」


同じ頃。


クラン配信界隈も、ざわついていた。


《爆弾禁止派クラン声明》

《安全性確保のため自粛します》

《いや使うでしょ普通》


あるクランは言う。


「爆弾は制御が難しい。

 拠点があっても、リスクが高すぎる」


別のクランは言う。


「重火器が無効な敵が出てきた以上、

 選択肢から外す理由がない」


火力論争ではない。


思想の衝突だ。


夜。


地下。


拠点の奥で、

俺は静かに端末を見ていた。


規制。

議論。

声明。


どれも、

想定内。


「……爆弾を使ったから、じゃない」


問題はそこじゃない。


俺が見せたのは、


ルールは“守るもの”じゃなく

“理解するもの”だ


という事実だ。


それが、

怖い。


配信通知が、また増えている。


だが、

今日はつけない。


代わりに、

一つだけメモを残す。


《爆弾は主戦力にしない》

《理由:拠点思想と噛み合わない》


世界がどう騒ごうと、

俺の基準は変わらない。


生き延びるため。

構造を試すため。


そして――

ドラゴンに届くかを、見るため。


地上では、

誰かが言った。


「地下マスターは、

 どこまで行くつもりなんだ?」


地下で、

俺は答える。


「……まだ、途中だ」


不滅を司る龍の王。


あれは、

まだ“試験前”。


本番は、

もっと先だ。


世界は、

爆弾で揺れた。


だが本当に揺らいだのは、

常識の方だった。


(第7話・了)

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