第50話 三つの最適解と、消えない選択肢
三つの案が、
頭の中に並んでいる。
どれも正しい。
どれも間違っている。
だから、
比較するしかない。
まず――
法霊崎家。
一番、計画的だ。
時間停止。
事前構築。
短期決戦。
失敗時の分岐まで用意済み。
感情を排した、
“勝つためだけ”の設計。
正直に言えば――
闘うなら、一番可能性がある。
被害は最小。
成功率は最大。
人類主導も維持できる。
……核を使う、
という一点を除けば。
いや、
除けないからこそ、
この案は完成している。
次――
不知火家。
一番、現実的だ。
世界を救うなんて言わない。
救えないものは切る。
日本を盤石にして、
生き残る確率を上げる。
合理的。
冷酷。
そして、正しい。
だが。
俺は、
そもそも――
龍と闘うために、
ここまで来た。
アメリカを切る。
世界を切る。
それは、
“闘わない”選択だ。
不知火の案は、
生存戦略としては正解。
でも――
俺の目的とは、噛み合わない。
論外だ。
そして――
天王寺家。
……計画性がない。
悪く言えば、
行き当たりばったり。
よく言えば、
最後まで諦めない。
現場で起きた問題を、
現場で殴って止める。
それが天王寺のやり方だ。
尊敬はしている。
信頼もしている。
だが――
龍相手の戦争を、
それでやれるかと言われると、話は別だ。
協力者としては、
心強い。
作戦の中核としては、
無理がある。
整理すると、
こうなる。
不知火:現実的だが、闘わない
天王寺:闘うが、計画がない
法霊崎:冷酷だが、勝ち筋がある
消去法で残るのは、
法霊崎家。
……はずだった。
でも、
頭の片隅から、
どうしても消えない存在がある。
エルフ。
エルフは、
最適解を提示しない。
完成を急がない。
線を引かない。
未完成のまま、
生き延びる。
合理性は低い。
勝率も高くない。
だが――
龍の価値基準そのものを否定できる。
個として完成しない。
固定された未来を拒む。
それは、
法霊崎の“最適解”とも、
不知火の“線引き”とも違う。
法霊崎は、
勝つために切る。
エルフは、
切らないことで逃げる。
どちらも、
龍と真逆の選択だ。
「……二択、か」
小さく呟く。
エルフか。
法霊崎か。
法霊崎を選べば、
勝てるかもしれない。
その代わり、
核という“取り返しのつかないカード”を、
自分の手で握ることになる。
エルフを選べば、
勝てないかもしれない。
その代わり、
人類を切らないまま、
闘い続けることができる。
どちらも、
重い。
どちらも、
逃げ場がない。
三家は、
それぞれ最適解を出した。
誰も、
間違っていない。
だからこそ――
最後に残った選択は、
最適解じゃない。
俺は、
机に肘をつき、
顔を覆う。
ここまで来て、
ようやく分かった。
問題は、
どれが正しいかじゃない。
どれを選んだあと、
自分が立っていられるかだ。
法霊崎か。
エルフか。
どちらを選んでも、
何かを失う。
それでも――
選ばなければ、
龍が選ぶ。
「……まだ、
考える余地はある」
自分に言い聞かせる。
最適解を、
そのまま呑む必要はない。
混ぜることも、
歪めることも、
拒否することも――
まだ、できる。
第50話は、
結論を出す話じゃない。
選択肢を、
本当の意味で理解した話だ。
(第50話・了)




