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第5話 撃てない敵

違和感は、音から始まった。


五十階層の奥。

拠点網の、まだロックを解除していない区画。


本来なら、

魔物の足音がある。

呼吸音がある。

魔力のざらつきがある。


――どれも、ない。


「……静かすぎる」


端末に表示される反応は、一つ。


単独。

大型。

移動速度、遅い。


それだけ。


「嫌な予感しかしないな」


俺は銃を生成し、

反射的に構える。


練習しすぎて、

もう考える前に体が動く。


照準。

距離。

弾道。


完璧。


なのに――

胸の奥が、ざわつく。


影が、現れた。


人型に近いが、

どこか歪だ。


装甲のような外殻。

鈍い光を反射する表面。


重い。

とにかく、重い。


「……ボス、か」


試しに、撃つ。


乾いた音。


弾丸が、命中――

したはずだった。


だが。


弾は、

消えた。


跳ね返らない。

砕けない。

当たった感触すら、ない。


「……は?」


二発、三発。


連射。


すべて、同じ。


弾丸は、

外殻に触れた瞬間、

存在を失う。


ミサイルに切り替える。


威力。

半径。

計算通り。


爆光。


……何も、起きていない。


煙の向こうから、

ボスが歩いてくる。


変わらない速度で。

変わらない姿で。


「……重火器無効、か」


言葉にした瞬間、

頭の中が冷える。


理解した。


これは、撃つ相手じゃない。


距離を取る。


拠点側へ後退。


ボスは追ってこない。

だが、止まりもしない。


ただ、

そこに在り続ける。


「……撃てば倒せる敵じゃない」


銃の引き金に、

指をかけたまま、外す。


初めてだった。


俺が、

自分の武器を信用しなかったのは。


「撤退」


即断。


扉を閉じ、

通路を封鎖。


拠点を沈める。


魔力反応が、遮断される。


ボスの反応は、

そこで止まった。


安全圏。


息を、吐く。


「……死ぬほど練習したんだけどな」


自嘲気味に呟く。


弾道も、

判断も、

速度も、完璧だった。


それでも、通用しない敵。


――否定されたわけじゃない。


通用しない領域があると、示されただけだ。


「……いい」


むしろ、ありがたい。


こういう敵がいないと、

俺は止まらない。


端末に、メモを残す。


《対象:重火器無効》

《投射物・爆発反応なし》

《接触型・環境干渉の可能性あり》


銃を消す。


代わりに、

生成リストを開く。


ドローン。

簡易爆薬。

コスパ重視。


「……撃つな、置け」


誰に言うでもなく、

呟いた。


かっこつけたいからじゃない。


生き残るためだ。


そして――

勝つために。


拠点の奥で、

小さなプロペラ音が立ち上がる。


まだ、配信はしない。


これは、

俺だけの戦いだ。


初めての、

撃てない敵。


だからこそ――

やりがいは、ある。


(第5話・了)

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