第49話 停止した時間の中で、最適解だけが残ったのです
時間は、止まっているのです。
音も。
風も。
熱も。
世界は、完全に静止しているのです。
その中で、動いているのは――
法霊崎家だけなのです。
「議題を再確認するのです」
めいは、円卓を見回しながら言ったのです。
「龍王の排除。
人類主導の維持。
犠牲の最小化」
「以上三点を同時に満たす手段を、
今日中に決めるのです」
“今日”という言葉に、
意味はないのです。
ここでは、
時間は流れないのですから。
法霊崎家の会議は、
感情を持ち込まないのです。
誰が何を失うかではなく、
どれだけ減らせるか。
その一点だけを、
ひたすら積み上げるのです。
「三家連携案は?」
一人が言うのです。
「却下なのです」
めいは即答したのです。
「思想調整にかかる時間が長すぎるのです」
「龍は、待たないのです」
「エルフとの全面提携は?」
「却下なのです」
「人類主導権の喪失確率が高いのです」
「勝っても、
その後に詰むのです」
「龍の誘いを受ける?」
「論外なのです」
「それは“生存”ではなく
“素材化”なのです」
会議は、
無駄な枝を次々に落としていくのです。
残るのは、
不快で、冷酷で、
それでも一番マシな案だけなのです。
「……彼を中心に据える案」
誰かが、静かに言ったのです。
その瞬間、
場の全員が理解したのです。
ああ、と。
それしか残っていないと。
「拠点構築能力」
「事前準備に特化」
「停止時間と相性がいい」
「拠点間隔を、
時間停止可能距離に調整できる」
次々と、
利点が並ぶのです。
「停止時間内で、
アメリカ国内の拠点を可能な限り拡張」
「無理のない範囲で留める」
「短時間停止を繰り返す」
「天使と高火力能力者を投入」
めいは、
一度だけ目を閉じたのです。
計算するのです。
被害。
成功率。
失敗時の分岐。
「……短期決戦で
龍王に突っ込む」
「回復・適応の前に、
削り切る」
「停止時間内で
決着がつかない場合――」
誰かが、
続きを口にしたのです。
「原爆、なのですか」
「はい、なのです」
めいは、
一切ためらわずに答えたのです。
「国土と引き換えに、
確実に倒す」
「アメリカという国家は、
ここで終わるかもしれないのです」
「でも」
めいは、
淡々と続けたのです。
「龍王を取り逃がした世界に、
国家の価値はないのです」
沈黙。
誰も、
反論しないのです。
反論できないのです。
「倫理的問題は?」
「計算済みなのです」
「倫理は、
生存が前提なのです」
「死んだ文明に、
倫理は存在しないのです」
結論は、
すでに出ているのです。
時間を止める必要は、
もうないのです。
「では」
めいは、
立ち上がったのです。
「交渉に行くのです」
時間を、
再び止めるのです。
世界は、
相変わらず動かないのです。
主人公の前に、
めいは立ったのです。
止まった時間の中。
彼だけは、
少しだけ動けるのです。
「こんにちは、なのです」
めいは、
小さく頭を下げたのです。
「法霊崎 命なのです」
「単刀直入に言うのです」
「あなたと、
手を組みたいのです」
「最適解は、
あなたなのです」
「あなたの拠点と、
めいたちの時間停止」
「それで、
龍王を殺すのです」
「成功すれば、
被害は最小限なのです」
「失敗したら――」
少しだけ、
言葉を区切るのです。
「原爆を使うのです」
「国土は、
戻らないのです」
「でも」
めいは、
真っ直ぐ主人公を見たのです。
「人類は、
生き残るのです」
時間は、
まだ止まっているのです。
返事は、
急がせないのです。
だって――
考える時間は、
無限にあるのですから。
(第49話・了)




