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第48話 天王寺加恋、ため息をつく

「……で?」


天王寺加恋は、腕を組んだまま俺を見た。

声は低く、感情は乗っていない。

だが、その目は逃げを許さなかった。


「私との話、どうする気?」


それは確認じゃない。

返事を求める問いだった。


俺は一度、視線を落とす。

そして、隠さずに口を開いた。


「不知火家の副当主に会ってきた」


加恋の眉が、ほんの少しだけ動く。


「……桜ね」


「結婚して、不知火家に婿入りしろって話だった」


間。


驚きはない。

想定内だという顔だ。


「理由は?」


「アメリカは、もうどうにもならない」


その言葉を口にした瞬間、

胸の奥が軋んだ。


「だから、日本を盤石にするべきだって」


「三大固有魔法家庭を中核にして、

 強い能力者を血縁で固める」


「最悪の未来に備える、って」


……数秒。


加恋は、

小さく息を吐いた。


深く、

長いため息だった。


「はぁ……」


「そこまで国のことを考えてるなら」


彼女は、淡々と言った。


「そんな回りくどいこと、しなくていいでしょ」


俺は、言葉を失う。


「結婚だの、血縁だの」


「そんな遠回りしなくても」


「三大固有魔法家庭が、

 足並み揃えるのに尽力してくれれば」


「それが一番、手っ取り早い」


加恋の声には、

怒りも皮肉もなかった。


ただ――

現場を知る人間の純粋な疑問だけがあった。


「……不知火家は」


俺が言いかけると、

彼女は手で制した。


「分かってる」


「桜の考えも、

 理屈も」


「間違ってないのも、

 ちゃんと分かってる」


少しだけ、

視線が落ちる。


「でもね」


加恋は、はっきり言った。


「それ、

 一番簡単に線を引くやり方よ」


「アメリカを切る」


「世界を切る」


「救えないものは、

 最初から救わないって決める」


「……合理的なのは、認める」


「でも」


視線が、

俺に戻る。


「私たちは、

 それを“最後の手”にしてきた」


天王寺家。


今を守る家。

外にモンスターを出さない家。


誰にも知られず、

誰にも感謝されず、

それでも最前線に立ち続けてきた家。


「足並み揃えるのは、

 面倒よ」


「思想も、優先順位も、

 全部違う」


「正直、

 話すだけで胃が痛くなる」


一瞬、

自嘲気味に笑う。


「でも――」


「だからって、

 諦める理由にはならない」


「桜はね、賢い」


「賢すぎるの」


「だから、

 最悪を前提に考える」


「でも私は」


言葉を区切る。


「まだ、

 そこまで追い込まれた

 つもりはない」


「三家が揃えば、

 確かに最強じゃない」


「でも」


「揃おうとする努力を

 放棄した瞬間に」


「人類は、

 龍と同じ場所に立つ」


その言葉が、

静かに胸に落ちた。


「……あんた、

 どう思うの?」


加恋は、

初めて俺に判断を求めた。


「桜の言う通り、

 線を引くべきだと思う?」


「それとも」


少しだけ、

声が低くなる。


「まだ、

 回りくどく足掻く価値が

 あると思う?」


俺は、

すぐには答えられなかった。


不知火 桜の合理。

天王寺 加恋の現場感覚。


どちらも、

正しい。


だが、

一つだけ分かっている。


回りくどい、という言葉を

 “無駄”だと切り捨てた瞬間、

 何かが終わる。


加恋は、

俺の沈黙を見て、

それ以上は言わなかった。


「……返事は、

 急がなくていい」


踵を返す前に、

一言だけ残す。


「足並みを揃える努力を

 “遠回り”って言えるうちは」


「まだ、

 人類は詰んでない」


彼女が去ったあと、

俺はしばらく立ち尽くした。


回りくどい。

非効率。

面倒。


でも――


それを捨てるのは、

 いつでもできる。


(第48話・了)

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