第46話 なぜ、アメリカなのか
龍からの通信は、
問いに対する答えだった。
こちらが何も送っていないのに、
疑問そのものを読んだかのようなタイミングで届いた。
――なぜ、アメリカなのか。
短い沈黙のあと、
龍は淡々と理由を並べ始めた。
感情はない。
悪意もない。
ただの説明だ。
――最も強いからだ。
最初の理由は、
それだけだった。
アメリカは、
人類の中で最も強い国家。
軍事力。
技術力。
経済力。
ダンジョン攻略速度。
どれを取っても、
他国より一段上。
――だからこそ、
最初に折る価値がある。
――強者の心を折るのが、最も効率的だ。
龍はそう続けた。
弱い国を潰しても、
人類は立ち直る。
だが、
最強が敗れれば違う。
「次は自分たちだ」という恐怖が、
世界全体に伝播する。
――抵抗する意志が、
最も早く削れる。
それが、
龍の計算だった。
俺は、
奥歯を噛み締める。
理解できる。
理解できてしまう。
戦略として、
正しすぎる。
――第二の理由。
龍は、
言葉を区切る。
――国土が広い。
それだけで、
拠点としての価値は高い。
アメリカは、
一国で完結している。
大陸規模の土地。
豊富な資源。
多様な地形。
それでいて、
国家は一つ。
――管理が楽だ。
龍は、
そう言った。
複数国家にまたがる地域は、
面倒が多い。
政治。
文化。
同盟。
だがアメリカは違う。
一つ叩けば、
一つで終わる。
拠点として、
あまりにも都合がいい。
――第三の理由。
ここで、
龍の声がわずかに変わった。
――象徴性。
アメリカは、
人類にとっての象徴だ。
自由。
力。
主導権。
良くも悪くも、
「世界の中心」。
――そこを制圧すれば、
人類は理解する。
逆らっても、無意味だと。
通信は、
そこで一度切れた。
だが、
すぐに再接続される。
最後の一文が、
添えられていた。
――貴様は、理解しているはずだ。
――だからこそ、誘った。
――完成した個として、
――こちらに来い。
俺は、
しばらく動けなかった。
怒りはある。
吐き気もする。
だが――
龍の論理に、
穴がない。
「……だからこそ、
許せない」
小さく呟く。
アメリカは、
ただの国じゃない。
成功例だ。
失敗例だ。
矛盾の塊だ。
それでも――
人類が作り上げた一つの答えだ。
それを、
「都合がいいから」
「効率がいいから」
「心を折りやすいから」
そんな理由で、
踏み潰す。
拳を握る。
今度は、
抑えなかった。
「……分かったよ、龍」
声に出す。
「お前が、
どんな存在か」
龍は、
悪じゃない。
だが――
人類と共存する気もない。
完成した個。
完成した支配。
そのために、
人類を素材として扱う。
俺は、
通信端末を閉じる。
二つの案が、
頭をよぎる。
三家をまとめる道。
エルフと組む道。
どちらも、
龍の土俵から降りるための選択だ。
「……どっちにしても、
時間はないな」
龍は、
もう動き出している。
アメリカは、
“最初の例”にされる。
だが。
前例は、
覆されるためにある。
(第46話・了)




