第43話 交わらない三つと、残された一人
その会議は、
勝つためのものではなかった。
ましてや、
何かを決めるための場でもない。
ただ――
繋ぎ止めるための場だった。
会場は、都心から少し離れた地下施設。
防音、結界、電子遮断。
過剰なほどの安全対策が施されている。
日本国家が、
この会議をどれだけ恐れ、
同時にどれだけ期待しているかが分かる。
三大固有魔法家庭、合同会議。
天王寺家。
不知火家。
法霊崎家。
そして――
俺。
本来、俺が座る席じゃない。
それは、誰よりも分かっている。
だが、
この場に呼ばれた理由は一つだった。
「……正直に言います」
議長役の政治家が、
重たい声で切り出す。
「あなたが、日本国家を見限らないように」
「可能性を、
完全に捨てないように」
その言葉に、
誰も笑わなかった。
悲しい願いだと思った。
国家が、
一人の探索者に
希望を託している。
それ自体が、
もう限界の証拠だ。
「三家が連携すれば、
理論上は敵なしです」
政治家は、
分かりきったことを言う。
「現場を守れる天王寺」
「再発を防げる不知火」
「時間と知識を管理できる法霊崎」
「……足せば、
完璧なはずなんです」
その“はず”が、
何年も叶っていない理由を、
ここにいる全員が知っている。
天王寺家の代表が、
腕を組んだまま言う。
「現場は待ってくれない。
今出そうなモンスターを止めるのが先だ」
不知火家が、即座に返す。
「止めても、
同じ条件が残るなら意味がない」
「概念から潰さなければ、
いずれ必ず再発する」
法霊崎家は、
一拍置いて口を開く。
「どちらも早計です」
「時間を止め、
最悪の未来をすべて洗い出してから
最小損失の手を選ぶべきだ」
……噛み合わない。
誰も、
間違っていない。
だからこそ、
折れない。
政治家が、
一瞬だけ言葉に詰まる。
「……だからこそ、
今日は彼にも来てもらいました」
視線が、
一斉に俺に集まる。
「あなたは、
三家の外にいます」
「だからこそ、
三家すべてと話せる」
「そして――」
言葉を選ぶ。
「エルフにも、天使にも、
龍にも関わっている」
その瞬間、
空気が張り詰めた。
天王寺家は警戒。
不知火家は分析。
法霊崎家は沈黙。
三家すべてが、
俺を“危険物”として
正しく認識している。
「……率直に聞く」
不知火家が言った。
「あなたは、
どの思想を選ぶ?」
答えられるわけがない。
それは、
今日この場で決める類の話じゃない。
俺は、
ゆっくり息を吐いた。
「選ばない」
全員が、
一瞬だけ目を細める。
「少なくとも、
今は」
俺は続ける。
「天王寺の“今を守る”は必要だ」
「不知火の“再発を許さない”も理解できる」
「法霊崎の“人を消耗させない”は、
間違ってない」
「でも」
言葉を区切る。
「どれか一つだけを
正解にした瞬間、
人類は壊れる」
会場が、
静まり返る。
「だから俺は、
ここにいる」
「三家をまとめるためじゃない」
「まだ、
日本が詰んでないことを
自分自身に確認するために」
それは、
政治家が一番聞きたかった言葉だった。
「……まだ、可能性はあるか?」
小さな声で、
政治家が問う。
俺は、
即答しなかった。
だが、
目を逸らさなかった。
「可能性がないなら、
俺はもうここにいない」
その一言で、
十分だった。
会議は、
結論を出さないまま終わる。
だが、
それでよかった。
政治家は、
席を立つ前に呟いた。
「……悲しいな」
「最強を集めても、
勝てるわけじゃないなんて」
俺は、
心の中で答えた。
――だからこそ、
まだ終わっていない。
三家が揃っても、
敵なしにはならない。
だが――
まだ、分裂していない。
それだけで、
今の世界では
十分すぎる希望だった。
(第43話・了)




