第42話 三大固有魔法家庭という現実
「……あんた、
“モンスターが外に出ない理由”を
本気で考えたことある?」
天王寺加恋は、
移動用の車内でそう切り出した。
雑談みたいな口調だが、
問いの重さは冗談じゃない。
「ダンジョンができて何年も経つ。
なのに街は残ってる。
物流も、学校も、日常も」
「不思議だと思わない?」
俺は、すぐに答えなかった。
だが、心当たりはあった。
「……誰かが、
表に出る前に止めてる」
「正解」
加恋は短く言った。
「それをやってるのが、
三大固有魔法家庭」
日本には、
ダンジョン出現直後から
**表に出ない“戦争”**を続けてきた家が三つある。
国家直属でもない。
企業でもない。
ギルドでもない。
家だ。
「最初に得をした家庭が何か、分かる?」
加恋は続ける。
「資産家?
政治家?
違う」
「強い固有魔法を持つ人間を、
血縁に取り込めた家」
婚姻。
養子。
庇護。
時には、強引な囲い込み。
倫理的に綺麗とは言えない。
だが――
生存競争としては、あまりに正しい。
「三大の一つが、天王寺家」
加恋は淡々と言う。
「役割は単純。
日本のダンジョンから、
モンスターを外に出さない」
「人数は?」
「少ない」
即答だった。
「増やせば瓦解する。
戦闘は、質より連携が命だから」
彼女自身が、その象徴だ。
視界に入った対象を一刀両断する能力。
だが、それは無差別殲滅じゃない。
“必要な一体だけを確実に消す”
ための刃。
「他の二家は?」
俺が聞くと、加恋は少しだけ表情を曇らせた。
「思想が違う」
「一つは、
“国家と完全に一体化する”家」
「もう一つは、
“いずれ人類は選別されるべき”
って考えてる家」
……どれも、
一歩間違えたら破滅的だ。
「だから、三つで均衡を取ってる」
加恋は言う。
「どこかが暴走したら、
他が止める」
「国家ですら、
この均衡を壊せない」
ここで、ようやく分かった。
日本が、
妙に“耐えている理由”。
派手な勝利はない。
世界を救う英雄もいない。
その代わり――
崩壊だけを、延々と先送りしている。
「天王寺家が、
あんたを欲しがる理由も分かるでしょ」
加恋は、俺を見る。
「拠点。
構造。
無人化。
持続可能な戦線」
「私たちが
喉から手が出るほど欲しいものを、
あんたは一人で作ってる」
確かにそうだ。
俺の拠点は、
“英雄がいなくても回る戦場”だ。
それは――
三大固有魔法家庭の理想形。
「だから、
エルフに行かれるのは困る」
加恋は、はっきり言った。
「エルフは未来を作る。
でも、今を守らない」
「天王寺は、
今を守る。
未来は……後回し」
言い切りだった。
そこに迷いはない。
「どっちが正しいかは、
分からない」
「でも」
彼女は、静かに続ける。
「今が無くなったら、
未来を選ぶ権利も無くなる」
その言葉が、
胸に重く沈んだ。
三大固有魔法家庭。
それは英雄じゃない。
救世主でもない。
ただ、
世界が壊れないように
歯を食いしばってる人間の集まりだ。
そして今。
その均衡の外側に、
俺は立っている。
「どうする?」
加恋は聞かない。
答えを求めない。
ただ、現実だけを突きつける。
エルフの未来。
天王寺の現在。
龍の評価。
――どれか一つを選べば、
残りは敵になる。
俺は、
まだ答えを出さない。
だが、一つだけ確信した。
人類は、
思っていたよりも
ずっと必死に生き延びていた。
(第42話・了)




