表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/58

第40話 答えを出さないという選択

その場を離れるまで、

俺は一度も口を開かなかった。


エルフ代表も、何も言わない。

催促も、念押しも、沈黙を破るための言葉すらなかった。

まるで――答えが出ないこと自体を、想定していたかのように。


「……返答は?」


最後に、代表が静かに尋ねた。


俺は、少しだけ視線を落とし、短く答える。


「……時間をくれ」


それは交渉の言葉としては、弱すぎる。

だが、この場ではそれしか出てこなかった。


「なるべく早く返す」


自分でも分かるほど、曖昧な期限だった。

それでも、嘘ではない。


「分かりました」


エルフ代表は、即座に頷いた。


「あなたが沈黙することも、選択の一部です」


その一言で、

胸の奥が少しだけ楽になった。


ダンジョンを出るまでの道のりは、行きよりも長く感じた。

構造は変わらない。

罠も、通路も、光量も同じだ。

だが――見え方がまるで違う。


俺の頭の中は、騒がしかった。


エルフになれば、生き残れる。

寿命も、身体も、魔力も。

龍と戦うための準備も、ほぼ完璧に整う。


合理的だ。

正しい。

世界を救う確率は、確実に上がる。


――なのに。


「……違う」


何が違うのか、言葉にできない。

だが、違和感だけははっきりしている。


もし俺がエルフになったら。

人類のために戦うと言いながら、

自分だけが人類でなくなる。


それは裏切りじゃない。

逃げでもない。

でも――隔絶だ。


いつか、人類が滅びる日が来る。

エルフの言う通り、それは十分あり得る未来だ。

その時、俺はどうなる?


生き残る。

確実に。


そして、きっと――

「正しい選択だった」と言われる。


それが、

一番怖かった。


人類は、弱い。

愚かで、感情的で、すぐ分断される。

それは事実だ。


でも、

だからこそ――

その中で足掻いてきた。


群れて、失敗して、裏切って、

それでも何度も立て直してきた。


俺がやってきたことも、同じだ。

拠点を作り、構造を組み、効率を上げる。

だが、それは人類が群れるための土台だった。


俺自身が、

一人で完成するためのものじゃない。


「……俺は」


立ち止まり、天井を見上げる。


「俺は、完成しちゃいけない」


龍の評価基準を思い出す。

一人で完結した存在。

他を必要としない力。


それは、

俺が一番なりたくないものだった。


外に出ると、空気が少しだけ重く感じた。

人類圏の空だ。

雑音が多く、無駄が多く、危うい。


それでも、

不思議と安心する。


俺は端末を取り出し、エルフ代表に短いメッセージを送る。


返答はする

だが、即答はできない

なるべく早く連絡する


それだけ。


既読は、すぐについた。

返信は、ない。


俺は、歩きながら考え続ける。


答えは、まだ出ない。

どちらを選んでも、後悔は残る。


だから――

今は、選ばない。


沈黙する。

迷い続ける。

考え続ける。


それ自体が、

今の俺に許された唯一の行動だった。


そして、直感している。


この沈黙は、

誰かにとっては待ちで、

誰かにとっては警告だ。


龍も。

天使も。

エルフも。


――そして、人類も。


俺が答えを出すまで、

世界は、静かに息を潜めている。


(第40話・了)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ