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第4話 地下マスター

仮面は、元々用意していたものじゃない。


拠点の資材庫をひっくり返して、

「これならギリ使えるか……」

と拾い上げた、半分即席だ。


黒一色。

目元だけ、少し影が落ちる形。


派手じゃない。

でも、顔は完全に隠れる。


――十分だ。


名前も、少し考えた。


英雄は嫌だ。

管理者も違う。

王とか神とか、論外。


俺がやってきたことを、

一番正確に表す言葉。


「……地下マスター」


ダサいか?


いや、いい。


自分で名乗るなら、これくらい振り切った方がいい。


声は、加工する。


低めに。

少し、距離を取るように。


感情が分からないくらいでいい。


俺は配信台の前に立ち、

深く息を吸った。


――ここからは、役を演じる。


配信開始。


最初は、無音。


視聴者数が、秒単位で跳ね上がっていく。


コメント欄が、流れ始める。


《来た?》

《マジで本人?》

《地下のやつ?》

《声違くね?》


俺は、数秒待った。


静かになるのを、待つ。


そして、口を開く。


「……聞こえているな」


それだけで、

コメントが止まった。


「俺は、五十階層以降の地下にいる」


嘘は言わない。


「名前は必要ない。

 呼びたいなら、

 地下マスターでいい」


《本人!?》

《管理人!?》

《英雄!?》


「英雄じゃない」


即座に否定する。


「俺は攻略しない。

 誰かを導くつもりもない」


画面の向こうで、

期待がしぼむのが分かる。


――それでいい。


「ただ、

 誤解されたまま使われるのは困る」


少しだけ、間を置く。


「五十階層の“安全地帯”は、

 救済措置じゃない」


「生き延びるための、

 通過点だ」


コメントが、荒れ始める。


《使っていいの?》

《誰の許可がいる?》

《管理責任は?》


「質問には答えない」


一言で、切る。


「だが、

 やってはいけないことは言っておく」


画面が切り替わる。


簡略化した、地下構造の一部。

具体的な位置は伏せてある。


「床を壊すな」

「拠点を持ち出すな」

「武装したまま滞留するな」


淡々と、告げる。


「守れないなら、使うな」


しばらく、沈黙。


視聴者数は、さらに増えていた。


誰かが、コメントする。


《なんで今まで黙ってた?》


……来た。


俺は、ほんの一瞬だけ考えた。


そして、答える。


「完成していなかった」


それだけ。


《じゃあ今も途中?》


「そうだ」


《最深層まで行く気?》


「それは――」


言いかけて、止めた。


一拍。


「……俺が決める」


最後に、一つだけ言う。


これは、役としてじゃない。


本音だ。


「地上は、思っているより脆い」


「地下の方が、

 まだ静かだ」


仮面の奥で、

俺は小さく息を吐いた。


「無事に帰れ」


それだけ言って、

配信を切る。


配信終了。


静寂。


心臓の音が、やけに大きい。


「……やりきった」


かっこつけた。

死ぬほど。


でも、不思議と後悔はなかった。


名前を奪われる前に、

自分で役を決めた。


それだけで、

少しだけ、楽になった。


端末に、通知が溜まっていく。


ニュース。

分析動画。

模倣配信。


世界は、もう止まらない。


でも――


「地下は、俺の領域だ」


仮面を外さず、

俺は拠点の奥へ戻る。


次に撃つのは、

銃じゃないかもしれない。


それでも。


俺は、ここにいる。


(第4話・了)

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