第36話 完成を好むもの
龍は、群れない。
それは本能ではない。
思想だ。
観測は、続いていた。
アルテミス天導国。
人類圏。
周辺ダンジョン。
数値は、
常に更新される。
脅威度
成長率
依存度
そして――
完成度。
「……また、連携か」
龍は、
わずかな“ノイズ”を不快と判断した。
天使国家。
防衛構造は美しい。
魔法体系も洗練されている。
だが――
他者との接続が多すぎる。
人類との交易
情報共有
共同防衛
それは、
効率的に見える。
だが龍にとっては違う。
「未完成だ」
龍が評価するのは、
単独で完結しているかどうか。
一人で成立する力。
一個体で完結する判断。
他を必要としない構造。
それが、
龍の“理想”。
不滅王は、
まさにそれだった。
回復も。
魔力も。
意思決定も。
すべてを、
自分一体で完結させていた。
だから――
高評価だった。
「だが……」
龍は、
別の観測点を見る。
地下マスター。
人間。
個体としては、
弱い。
寿命も短い。
肉体も脆い。
だが――
構造が異質だった。
拠点
ネットワーク
無人化
自律運用
「……個体ではない」
龍は、
初めてその存在を
定義し直す。
「構造体か」
地下マスターは、
誰かと連携しているようで、
実はしていない。
命令系統は一つ。
判断は一人。
拠点は増えるが、
意思は増えない。
「……擬似的な単独存在」
それは、
龍の基準に
引っかかってしまった。
アルテミス天導国も同じだ。
国家という形をとりながら、
代表の意思が
ほぼ全体を支配している。
「……完成に近い」
だから龍は、
消さなかった。
殲滅しなかった。
観測を続けている。
一方。
ヨーロッパのダンジョン。
エルフ。
個体は強い。
魔法も深い。
だが――
意思が分散している。
長老会。
評議制。
合意形成。
「……評価不能」
龍は、
そう判断した。
単独で完成していない存在は、
評価に値しない。
「だが……」
一瞬、
龍の思考が止まる。
「……時間は、
かかるか」
長寿。
それは、
完成を遅らせるが、
否定はしない。
「……保留」
龍は、
エルフを
敵とも味方とも
認定しなかった。
それが、
エルフにとって
最大の防御だった。
その頃。
人類側の分析室。
主人公は、
報告書を読みながら
低く呟いた。
「……なるほどな」
「龍は、
群れを嫌う」
「連携を評価しない」
「一人で
完結してるかどうかを
見てる」
天使少女が、
静かに聞く。
「それは……
良いことですか?」
主人公は、
首を横に振った。
「最悪だ」
「人類は、
群れることで
生き延びてきた」
「つまり――」
一拍。
「人類そのものが、
龍の評価基準と
真逆にある」
沈黙。
「だから」
主人公は、
次の行動を
決める。
「エルフのところに
行く」
「完成しない文明が、
どうやって
生き残ってきたのか」
「それを知らないと、
俺たちは
龍に勝つどころか」
「存在として
弾かれる」
龍は、
まだ動かない。
だが。
評価は、
すでに始まっている。
(第36話・了)




