第26話 効かない個体
爆煙が、晴れない。
中心部は、
確かに更地になっている。
だが――
何かが立っていた。
「……残ってる?」
誰かが、
信じられないという声を出す。
赤外。
魔力反応。
視覚映像。
すべてが、
同じ一点を指している。
巨体。
人型に近いが、
もはや人間ではない。
皮膚の表面を、
半透明の膜が覆っている。
爆風を受けても、
揺れただけ。
「……防御型固有魔法」
俺は、
即座に理解した。
ゾンビは、防御が低い。
それが、
常識だった。
だが――
能力者ゾンビは例外だ。
「完全防御じゃない」
《オーバーサイト》代表が言う。
「だが、
面で受けてる」
つまり。
絨毯爆撃は“散る”
→ 防御で受け止められる
「……来るぞ」
巨体が、
一歩前に出る。
地面が、
沈む。
「タンクだな」
俺は、
短く言った。
「前線を張るためだけの存在」
その背後。
影が、
まだ動いている。
防御の低い、
通常ゾンビ。
「……狙いは、
時間稼ぎだ」
「順番を変える」
俺は、
即断する。
「タンクを先に削る」
「一気に、
抜かない」
「……分かってるな?」
全員、
頷いた。
対物ライフル。
ミサイル。
四方向の拠点から、
同時照準。
狙うのは、
一点。
防御膜の、
歪み。
「……撃て」
衝撃。
貫通しない。
だが――
揺れる。
「効いてる!」
「防御、
固定型だ!」
防御は、
万能じゃない。
一点集中には、
弱い。
ミサイルが、
追い打ちをかける。
爆風ではなく、
衝撃波。
膜が、
軋む。
巨体が、
一歩下がる。
「……よし」
俺は、
息を吐く。
「今だ」
次の瞬間。
射線を、
一斉に切り替える。
「後ろを、掃け」
タンクが下がった。
防御が、
前を向いた。
その背後――
空いた。
対物じゃない。
通常火器。
ドローン。
低コスト爆弾。
一斉に、
なだれ込む。
爆発。
今度は、
残らない。
通常ゾンビが、
消える。
噛む前に。
近づく前に。
「……連携、
崩れた!」
「思考網、
遅れてる!」
タンクが、
振り返ろうとする。
だが――
遅い。
「……もう一回」
俺は、
冷静に言う。
「削り切れ」
四方向。
再び、
一点集中。
今度は、
防御が間に合わない。
膜が、
砕ける。
巨体が、
膝をついた。
沈黙。
立っているのは、
もういない。
ゾンビの群れは、
統制を失い、
散っていく。
戦闘終了。
誰も、
すぐには喜ばなかった。
「……効いたな」
《オーバーサイト》代表が、
静かに言う。
「効いた」
俺は、
頷く。
「だが――」
一拍。
「相手も、進化してる」
ゾンビは、
弱い。
だが、
役割を持ち始めた瞬間、
軍になる。
前線。
タンク。
後衛。
人間がやることを、
ゾンビがやり始めている。
「……これ、
長期戦になるぞ」
誰かが言う。
「なるな」
俺は、
否定する。
「長期戦にしたら、負ける」
新しい設計メモを開く。
タイトルを、
ようやく書いた。
《対ゾンビ役割分担構造》
ゾンビは、
連携する。
なら――
役割ごと、潰す。
それが、
次の段階だ。
爆撃は、
万能じゃない。
だが――
無意味でもない。
正しい順番で使えば、
まだ戦える。
問題は一つ。
この“順番”を、
相手が学び始めたらどうするか。
戦場の奥で、
誰かが見ている。
思考ネットワークの、
さらに奥。
次は――
もっと賢い。
それが、
確信だった。
(第26話・了)




