第24話 人間爆弾
異変は、
爆発から始まらなかった。
「……侵入反応、なし」
拠点外周のログは、
いつも通りだった。
距離。
数。
動線。
どれも、想定内。
「前線ゾンビ、
通常個体のみ」
油断ではない。
確認だ。
問題があるなら、
ここで引っかかるはずだった。
ゾンビは、
歩いてきた。
走らない。
噛みつかない。
ただ、
近づいてくる。
「……変だな」
誰かが呟く。
だが、
異常ではない。
前線に出るのは、
いつも“何も持たない”個体だ。
距離、三十。
射線に入る。
「……止める?」
《オーバーサイト》代表が、
確認してくる。
俺は、
一瞬だけ迷った。
「……待て」
理由は単純だ。
倒すと、増える。
距離、二十。
その瞬間だった。
ゾンビが、
立ち止まった。
そして――
振り返った。
後方を見る。
誰かに、
何かを確認するように。
「……?」
嫌な感覚が、
背中を這う。
次の瞬間。
爆発。
轟音は、
想像よりも小さかった。
だが――
内部だった。
「拠点B、
内部圧力異常!」
「何が起きた!?」
爆風が、
通路を駆け抜ける。
隔壁が、
歪む。
「……中だと!?」
誰かが叫ぶ。
ありえない。
侵入ログは、
ゼロ。
噛みつきも、
接触も、ない。
なのに――
爆発した。
二回目は、
もっとはっきり見えた。
別方向。
前線ゾンビの一体が、
同じ動きをする。
立ち止まり、
後方を見る。
「……来るぞ」
間に合わない。
爆発。
今度は、
拠点C。
沈黙。
誰も、
すぐに喋れなかった。
「……地下マスター」
《オーバーサイト》代表が、
かすれた声で言う。
「これ……
偶然じゃない」
「分かってる」
俺は、
端末を握りしめる。
ログを、
必死に洗う。
索敵。
魔力反応。
能力発動履歴。
そして――
見つけた。
爆発直前。
前線ゾンビの魔力が、
一瞬だけ内側に集中している。
外じゃない。
中だ。
「……人間爆弾」
言葉にした瞬間、
全員が凍りついた。
「固有魔法……?」
「……同意が必要な、
あの能力か」
「生前なら、
使えないはずだ……」
「ゾンビ化してる」
俺が、
静かに言う。
「同意の概念が、
壊れてる」
理解した瞬間、
背筋が寒くなる。
前線ゾンビは、
爆弾だ。
使い捨て。
感染源。
そして――
拠点破壊用兵器。
思考ネットワークで、
最適位置まで誘導。
起爆は、
背後の能力者ゾンビ。
「……最悪だ」
誰かが、
呟いた。
拠点は、
完全には壊れていない。
だが――
壊せると証明された。
それが、
致命的だった。
撤退。
今度は、
迷わない。
ゾンビは、
追ってこない。
追う必要が、
ないからだ。
こちらの“負け筋”を、
見せただけで十分。
安全圏。
誰も、
顔を上げられなかった。
「……地下マスター」
代表が、
重く言う。
「拠点が、
通用しなくなったか?」
俺は、
しばらく黙った。
そして、
答える。
「……通用する」
全員が、
こちらを見る。
「ただし――」
一拍。
「人間を前提にしなければ、だ」
それは、
今まで避けてきた結論だった。
ゾンビは、
人間だった。
だから、
管理できると思っていた。
だが――
人間だったから、
最悪になった。
俺は、
新しい設計メモを開く。
タイトルは、
短く、重い。
《対人間爆弾構造》
書き出す前に、
一度だけ呟く。
「……これは、
不滅王よりきついな」
神話より、
よほど。
拠点は、
初めて破壊された。
それは敗北じゃない。
だが――
安心が、壊れた。
ここから先は、
もう“管理”じゃない。
選別の領域だ。
(第24話・了)




