第23話 無理かもしれない、という感覚
最初に違和感を覚えたのは、
静かすぎることだった。
「……止まってる?」
前線カメラに映るゾンビたちは、
走っていない。
群がってもいない。
ただ――
配置されている。
「ゾンビが、
待ってる……?」
《オーバーサイト》の誰かが、
信じられないという声を出す。
通常なら、
ゾンビは突っ込んでくる。
数で押す。
噛みつく。
増える。
だが今回は違う。
前線に立つのは、
固有魔法を持たないゾンビ。
動きは鈍い。
個々は、脅威じゃない。
「……でも」
俺は、
地図を拡大する。
「後ろが、見えない」
気づいた瞬間、
遅かった。
前線の一体が、
わざと倒れた。
転倒――
いや、合図だ。
次の瞬間。
後方から、
魔法が飛ぶ。
炎ではない。
雷でもない。
索敵妨害。
「……来た!」
「思考読まれてる!」
拠点の配置。
射線。
死角。
全部、
一瞬で修正される。
「……これ」
誰かが、
声を震わせる。
「人間より、
連携取れてないか?」
否定できない。
ゾンビ同士が、
視線を交わさずに動く。
避ける。
重なる。
道を空ける。
「……思考ネットワークだ」
俺は、
唇を噛む。
固有魔法持ちゾンビは、
前に出ない。
前線が削られれば、
次の一般ゾンビが出る。
噛まれれば、
増える。
倒せば、
数が変わらない。
「……詰んでないか?」
誰かが、
本音を漏らす。
俺は、
答えなかった。
その瞬間。
初めて思った。
「……これは、
無理かもしれない」
不滅王とは、違う。
あちらは、
個体。
こちらは――
構造そのものが敵だ。
撤退。
即断だった。
追ってこない。
追う必要が、
ないからだ。
ゾンビ側は、
“押し返した”だけ。
勝つ必要すら、ない。
安全圏。
誰も、
すぐに口を開かなかった。
「……地下マスター」
《オーバーサイト》代表が、
慎重に言う。
「正直に聞く」
「……勝てるか?」
俺は、
一度目を閉じた。
そして、
答える。
「今のままじゃ、無理だ」
重い沈黙。
だが――
そこで終わらせない。
俺は、
端末を操作する。
さっきの戦闘ログ。
索敵データ。
魔力反応。
「……でもな」
全員が、
こちらを見る。
「決定打が、ない」
「ゾンビは強い」
「連携も、
思考共有もある」
「だが――」
指で、
一点を示す。
「索敵を、
見落とした時のリカバリがない」
「ミスしない前提で、
組まれてる」
思考ネットワークは、
万能じゃない。
情報があって成立する
共有できない瞬間が致命傷
“見えていない”ことに弱い
「……つまり」
誰かが、
気づく。
「目を潰せばいい」
「正確には」
俺は、
言い直す。
「目を、
信じさせない」
ゾンビは、
恐怖を感じない。
疑問も持たない。
だが――
前提が壊れると、
修正が遅れる。
人間みたいに、
疑って止まらない。
「……そこが、
隙だ」
俺は、
小さく呟く。
無理かもしれない。
だが――
不可能じゃない。
必要なのは、
火力でも、
殲滅でもない。
“見えているはずの情報”を
信用させない構造。
俺は、
新しい設計メモを開く。
タイトルは、
短く。
《対ゾンビ思考網構造案》
ここから先は、
地獄だ。
だが――
逃げ道は、見えた。
(第23話・了)




