第21話 神話が捕まった日
最初に壊れたのは、前提だった。
《速報》
アメリカ国内ダンジョンにて確認されていた
“不滅を司る龍の王”が
行動不能状態に置かれたことが確認されました。
撃破ではありません。
討伐でもありません。
――拘束です。
キャスターは、
何度も言い直した。
「倒された、ではありません」
「捕獲された、でもありません」
「……動けなくなった、が正確です」
言葉が、追いついていなかった。
SNSは、完全に割れた。
《神話が捕まった???》
《意味わからん》
《不滅じゃなかったの?》
《倒してないのに勝ちなの?》
そして、
一番多かった言葉。
《どうやった》
会議室。
日米合同の関係者が、
沈黙したまま資料を見ている。
映っているのは、
三角形の拠点配置と
中央に固定された“不滅”。
「……被害は?」
「ゼロです」
「人員損失は?」
「ゼロ」
「拠点消耗は?」
「想定範囲内」
誰かが、
乾いた笑いを漏らした。
「……戦争じゃないな」
「工事だ」
誰かが、
そう言った。
配信。
仮面の向こうで、
俺は深く説明する気はなかった。
だが――
理解されないと、次がない。
「簡単に説明する」
そう前置きして、
言葉を選ぶ。
「不滅王は、
回復に特化してる」
「肉体も、
魔力も」
「だから、
削る意味がない」
コメントが、流れる。
《じゃあどうやって》
《無理ゲーじゃん》
「……逆だ」
俺は、
淡々と言った。
「回復できるなら、
回復し続けさせればいい」
一瞬、
コメントが止まる。
「今回やったのは、
三点拘束だ」
画面に、
簡易図を出す。
[拠点A]
│
│
( 不滅王 )
/ \
/ \
[拠点B] —— [拠点C]
「三方向から、
同時に魔力ロープを展開」
「太さは、
ロープ程度」
《細くね?》
《それで神話縛れる?》
「縛れない」
即答する。
「一気には無理」
「だから条件がある」
「完全に縛り終えるまで、
とんでもない魔力を流し続ける」
「途中で止めたら、
全部無駄」
「つまり――
一発勝負」
空気が、変わる。
「もう一つ」
俺は、
指を立てる。
「外側」
「三角形の外、
半径百メートル以上は
完全な安全圏じゃないとダメ」
《なんで?》
「外から攻撃されると、
魔力ロープが緩む」
「一本でも緩んだら、
終わり」
つまり。
周囲が静かな
完璧な舞台でしか
成立しない構造。
コメントが、
ざわつく。
《無理じゃね?》
《条件きつすぎ》
《再現性低くない?》
「その通りだ」
俺は、
否定しない。
「だから今まで使ってない」
「不滅王だから、
使った」
沈黙。
誰かが、
書き込む。
《倒してないのに……》
「倒してない」
俺は、
それを拾う。
「でも――」
一拍、置く。
「戦場からは消えた」
「不滅王は、
回復し続けてる」
「でも、
位置が変えられない」
「動けない」
「それだけで、
十分だった」
これが、
今回の答えだ。
世界は、
騒然としていた。
神話は倒れなかった。
だが――
神話は拘束された。
それは、
どんな撃破よりも
衝撃だった。
夜。
地下。
俺は、
一人でモニターを見る。
不滅王は、
まだ嗤っている。
逃げようともしない。
壊そうともしない。
ただ、
そこにいる。
「……世界は、
勝ったと思ってる」
小さく呟く。
だが――
俺は知っている。
これは、
終わりじゃない。
“通用した”
最初の一回だ。
神話が捕まった日。
それは、
人類が初めて
「倒さずに勝つ」という選択肢を
証明した日だった。
そして同時に。
次は――
この構造が壊される番だ。
(第21話・了)




