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第17話 今は、勝てる気がした

数値は、嘘をつかなかった。


前線空域。

赤点は、ほとんど残っていない。


「……壊滅寸前だな」


《オーバーサイト》の誰かが、

信じられないという声で言う。


大型は、出てこない。

レッサーは散開し、

連携を失っている。


統制は崩れ、

補給線も切れた。


「ここまで来るとは……」


誰もが、

勝った空気を感じていた。


俺自身も――

正直、感じていた。


「……行けるな」


思わず、

口に出た。


拠点網。

射線。

斬首。


すべてが、

噛み合っている。


今なら――

奥に踏み込める。


「地下マスター」


《オーバーサイト》代表が、

慎重に声をかける。


「このまま、

 後方を叩くか?」


俺は、

地図を拡大する。


赤点の、

さらに奥。


今まで、

手を出さなかった領域。


「……今が、チャンスだ」


自分でも分かる。


これは、

調子に乗っている。


だが――

勝っている時ほど、

判断は大胆になる。


その時だった。


「……待て」


誰かの声が、

震えた。


「なに?」


「……反応が、

 違う」


端末の表示が、

一斉に変わる。


赤でもない。

黄色でもない。


黒に近い反応。


「……なんだ、これ」


空気が、

一気に冷えた。


見えたのは、

“存在”だった。


大きさではない。

威圧でもない。


ただ――

在る。


空間の中心に、

何かがいる。


「……来たな」


誰かが、

喉を鳴らす。


俺は、

言葉を失った。


翼は、動いていない。


だが、

空中に留まっている。


炎も、

雷も、

放っていない。


それなのに――

空間が、回復している。


破壊された地形。

乱れた魔力。


すべてが、

元に戻っていく。


「……まさか」


《オーバーサイト》代表が、

かすれた声で言う。


「不滅……?」


分かる。


あれは――

不滅王だ。


自己回復。

魔力回復。


存在しているだけで、

戦場を“無効化”する。


「……すげえな」


思わず、

呟いた。


正直な感想だった。


だが。


「……今だ」


俺は、

すぐに思考を切り替える。


「今なら、

 背後を取れる」


「拠点網は、

 まだ生きてる」


「奇襲なら――」


言いかけて、

止まった。


「待て!」


《オーバーサイト》代表が、

強い声で叫ぶ。


「今じゃない!」


「なぜだ!」


反射的に、

言い返す。


「見ろ!

 奴は、

 まだ動いてない!」


「だからだ!」


代表は、

一歩前に出た。


「あれは、

 戦場を見てる」


「勝敗を、

 見てない」


「構造を、

 見てる」


――その一言で、

頭が冷えた。


確かに。


不滅王は、

攻撃していない。


威圧もない。


ただ、

こちらを観測している。


「……今、

 仕掛けたら?」


誰かが、

恐る恐る言う。


「たぶん」


代表が、

静かに答える。


「本気で来る」


俺は、

拳を握りしめた。


悔しさじゃない。


惜しさだ。


ここまで来て、

届きそうで、

届かない。


「……くそ」


本音が、漏れた。


「今は、

 勝てる気がしたんだ」


沈黙。


誰も、

否定しない。


「……地下マスター」


代表が、

落ち着いた声で言う。


「今は、

 戦える時じゃない」


「勝てそうに見える時ほど、

 罠だ」


俺は、

ゆっくり息を吐いた。


そして、

頷く。


「……撤退だ」


射線を、外す。


拠点を、沈める。


ネットワークは、

静かに後退する。


不滅王は、

追ってこない。


ただ――

見ている。


安全圏。


誰も、

すぐには喋らなかった。


「……大戦果だな」


誰かが、

ようやく言う。


「敵陣営は、

 壊滅寸前だ」


「ああ」


俺は、

そう答えた。


「でも――」


地図を、閉じる。


「本番は、

 今からだ」


その夜。


世界は、

勝利を祝った。


だが地下では、

全員が分かっていた。


今日見たのは――

勝てない敵の、影だ。


そして同時に。


あれは、

倒すために出てきたんじゃない。


評価するために、

出てきた。


俺は、

仮面を直す。


「……次は」


呟く。


「負ける前提で、

 考える」


それが、

不滅王への

唯一の礼儀だ。


(第17話・了)

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