第14話 倒せるうちに
最初に見えたのは、影だった。
天井のない空間を、
低く、速く、横切る影。
「……あれか」
レッサードラゴン。
小型。
だが、速い。
翼は薄く、
胴は引き締まっている。
「数、三」
《オーバーサイト》から、即座に報告。
「高度低。
索敵行動に入ってる」
――予想通りだ。
レッサーは、
前線の“目”だ。
拠点配置は、
すでに組んである。
前に出ない。
追わない。
通すな。
「距離、五十で警戒」
「四十で、射線固定」
「三十で――」
俺は、
短く言う。
「囲う」
拠点A、B、C。
三方向から、
視界がかかる。
撃たない。
だが、
見られている。
それだけで、
レッサーの動きが鈍る。
「……止まった」
「いや、
止まれないんだ」
レッサーは、
空中で旋回する。
進めば、
どこかに入る。
退けば、
別の拠点が見ている。
「……拠点、効いてる」
誰かが、
低く呟く。
一体が、
無理に突っ込んできた。
速い。
だが――
速さは、
予測できる。
「ドローン、出す」
低コスト。
簡易型。
狙わない。
追わない。
道を塞ぐ。
レッサーは、
反射的に進路を変える。
そこに――
別の射線。
「……挟んだ」
撃つのは、
最後だ。
近づきすぎた個体にだけ。
「許可」
「……撃て」
乾いた音。
銃弾は、
翼の付け根をかすめる。
致命傷じゃない。
だが、
高度が落ちる。
「地面だ」
着地した瞬間、
拠点側の制圧範囲。
逃げ場はない。
「……終わらせる」
爆弾は、使わない。
今回は、
通用確認が目的だ。
集中射。
レッサーが、
動かなくなる。
残り二体。
一体は、
即座に撤退した。
もう一体は――
様子を見ている。
「……学習、早いな」
龍だ。
ただの魔物じゃない。
「深追いしない」
俺は、即断する。
「退かせろ」
射線を、
わざと空ける。
レッサーは、
一瞬迷い――
逃げた。
静寂。
誰も、
すぐには喋らなかった。
初めての龍戦。
勝ったか?
……違う。
「……通用したな」
《オーバーサイト》代表が、
静かに言った。
「拠点が」
俺は、
頷く。
「火力じゃない」
「構造だ」
「レッサー相手なら、
間に合う」
重要なのは、
そこだけだ。
端末に、
データが積み上がる。
・警戒距離
・旋回反応
・撤退判断
・学習速度
全部、
次に繋がる。
だが――
嫌な数字も、出ている。
「……成長兆候」
《オーバーサイト》の一人が言う。
「魔力密度、
上がってる」
「……ああ」
やっぱり、
時間は味方じゃない。
俺は、
地図を見下ろす。
赤点が、
まだ多い。
「急ぐぞ」
「これは、
殲滅戦じゃない」
「刈り取りだ」
倒せるうちに。
育つ前に。
英雄みたいな言葉は、使わない。
これは、
ただの管理作業だ。
その夜。
アメリカ政府の内部報告に、
一行が追加された。
地下マスターの拠点構造は、
小型龍に対して有効。
ただし、
時間制限あり。
不滅王の名は、
まだ出てこない。
だが――
確実に、近づいている。
地下で、
次の迎撃地点が指定される。
龍は、
倒せるうちに倒す。
それだけだ。
だが、
それだけでも――
世界は、少し延命した。
(第14話・了)




