表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/19

第13話 生存圏、最初の一歩

アメリカ政府とのやり取りは、

交渉というよりすり合わせだった。


「最前線にいるドラゴンの、

 およそ半数が“レッサードラゴン”です」


画面越しに映る分析官が、

淡々と告げる。


「小型。

 高機動。

 個体差はありますが、

 コストパフォーマンスが異常に高い」


俺は黙って聞く。


「そして――」


少しだけ、声が低くなる。


「成長します」


来た。


「レッサーは、

 一定条件を満たすと大型化する」


「魔力密度、

 支配領域、

 戦闘経験」


「条件が揃えば、

 大型ドラゴンへ移行」


言い換えれば。


今なら倒せるが、

放置すれば倒せなくなる。


「現状の最前線にいるレッサーが、

 成長を始めた場合――」


分析官は、

その先を言わなかった。


言う必要がない。


詰みだ。


「……で?」


俺は、短く促す。


「お願いがあります」


画面の向こうで、

数人が視線を交わす。


「我々が把握している

 レッサードラゴンの分布、

 行動パターン、

 出現条件」


「それらを、

 すべて提供します」


条件は、

もう分かっている。


「代わりに」


分析官は、

はっきり言った。


「最前線のレッサードラゴン殲滅を、

 優先目標として動いてほしい」


沈黙。


《オーバーサイト》のメンバーが、

息を呑むのが分かる。


それは、

実質的な軍事作戦への参加だ。


だが――

“討伐”ではない。


“支配打破”でもない。


成長阻止。

生存圏維持。


あまりにも、

現実的すぎる。


「理由は一つです」


分析官が、続ける。


「大型化したレッサーは、

 我々では対処できません」


「ですが、

 あなたの拠点網と構造戦なら――」


言葉を、切る。


「間に合う可能性がある」


可能性。


それ以上も、

それ以下も言わない。


信用しているわけじゃない。

だが、賭けている。


俺は、

少し考えた。


これは、

世界を救う話じゃない。


これは、

実験対象として理想的だ。


単体最強ではない


だが放置すると詰む


数が多い


機動力が高い


拠点ネットワークの

試験台として、これ以上はない。


「……条件がある」


俺は言った。


全員が、

身構える。


「殲滅は、

 前線に限定する」


「奥には踏み込まない」


「大型個体が出たら、

 即撤退」


「深追いはしない」


一拍。


「理由は単純だ」


「俺は、

 勝てる範囲しか触らない」


「勝てない場所に、

 希望を置かない」


国家相手に、

よく言える言葉だ。


だが、

誰も反論しなかった。


それが、

現実だからだ。


「了解しました」


分析官が、

ゆっくり頷く。


「情報は、

 即時共有します」


「生存圏拡張の第一歩として、

 位置づけます」


生存圏。


またその言葉だ。


「……勘違いするな」


俺は、

一応言っておく。


「これは、

 人類のためじゃない」


「レッサーが成長すると、

 拠点が試せなくなる」


「それが嫌なだけだ」


画面の向こうで、

誰かが苦笑した。


「……ええ」


「承知しています」


数時間後。


アメリカ国内ダンジョン、

最前線エリア。


俺は、

新しい地図を見下ろしていた。


赤い点が、

無数にある。


レッサードラゴン。


「……多いな」


《オーバーサイト》代表が言う。


「数は脅威だ」


「違う」


俺は、

画面を拡大する。


「動線が読める」


「機動力が高いってことは、

 移動パターンが固定化される」


「だから――

 拠点が活きる」


初侵入。


最初の生存圏拡張。


相手は、

“まだ倒せる龍”。


だが、

油断すれば終わる。


俺は、

仮面を被り直す。


「やるぞ」


「これは、

 龍への宣戦布告じゃない」


「時間を稼ぐ作業だ」


その先にいるのは、

不滅王。


今はまだ、

手を伸ばさない。


だが――

伸ばせる距離までは、

必ず行く。


アメリカ国内ダンジョンに、

地下マスターが足を踏み入れた。


それは、

英雄の第一歩じゃない。


構造が、

世界に触れた最初の瞬間だった。


(第13話・了)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ