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第12話 生存圏という言葉

最初に動いたのは、軍ではなかった。


声明だった。


《アメリカ合衆国政府声明》


アメリカ国内ダンジョンにおける

市民の生存圏確保および拡張は、

国家としての最優先課題である。


現状、

特定存在による支配構造が確認されており、

これを正面から排除することは

現実的ではないと判断する。


よって我々は、

生存可能領域の拡張を目標とする。


ニュースキャスターは、

言葉を選びながら読み上げていた。


「……事実上、

 奪還ではなく共存を選んだ形です」


誰も反論しなかった。


龍がいる。


それだけで、

正面突破という選択肢は消える。


会議室。


モニターに映るのは、

地下マスターの仮面。


「……率直に言おう」


国防関係者が言った。


「彼の発言で、

 我々の前提はすべて崩れた」


「火力でどうにかなる相手ではない」


「英雄も、国家も、

 彼の言う“龍”には通用しない」


沈黙。


だが、

誰も否定しない。


「なら、

 彼は何をしている?」


「……構造だ」


別の人物が、低く言った。


「拠点。

 射程。

 視界。

 ネットワーク」


「彼は、

 戦争をしていない」


「生存空間を作っている」


その言葉で、

会議の空気が変わった。


「引き込めるか?」


誰かが、聞いた。


「……難しい」


即答だった。


「彼は、

 国家に属するタイプじゃない」


「英雄にもならない」


「思想が、

 国家運営と噛み合わない」


「だが」


間を置く。


「敵対させる理由も、ない」


結論は、

一つだった。


管理しない。

代わりに、邪魔もしない。

そして、選ばせる。


アプローチは、慎重に行われた。


・強制力を持たない

・命令しない

・英雄扱いしない

・責任を押し付けない


代わりに提示するのは、

環境だけ。


地下。


拠点。


俺の端末に、

一通のデータが届いた。


発信元は、

アメリカ政府。


だが、

差出人の名前はない。


内容は、

驚くほど淡泊だった。


《提案》


貴殿の活動は、

我が国における

市民の生存圏拡張と

結果的に一致している。


我々は、

貴殿を指揮下に置くつもりはない。


また、

責任を負わせるつもりもない。


ただし、

以下を保証する。


・拠点構築への干渉を行わない

・技術・資材の調達経路を開放する

・検証結果の公開を妨げない


見返りは、求めない。


判断は、

貴殿に委ねる。


俺は、

しばらく画面を見つめた。


「……随分、分かってるな」


命令も、

協力要請も、

同盟の言葉もない。


これは、

“味方になれ”じゃない。


「君の邪魔をしない」

という提案だ。


かなり、

賢いやり方だ。


《オーバーサイト》代表が、

横で言った。


「……国家が、

 あんたに合わせてきたな」


「違う」


俺は首を振る。


「国家が、

 現実に合わせただけだ」


龍がいる。


それが事実なら、

正解は一つしかない。


倒さない。

支配しない。


生きられる範囲を広げる。


俺は、

返信を書かない。


拒否もしない。

了承もしない。


ただ、

端末を閉じる。


「……やることは変わらない」


拠点を作る。

繋げる。

壊されて、直す。


それだけだ。


その夜。


世界は気づき始めていた。


地下マスターは、

国家の味方ではない。


だが――

国家よりも現実的だ。


アメリカは動いた。


だが、

彼を縛ろうとはしなかった。


それが、

唯一の生存戦略だと

理解してしまったからだ。


地下で、

新しい計画が動き出す。


次は、

国境を越える。


龍の支配圏の、

ふちへ。


(第12話・了)

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