第10話 見えないという攻撃
異変は、数字から始まった。
「……距離、測れません」
拠点Bからの報告。
声が、わずかに硬い。
「魔力反応は?」
「ある。
でも――
見えない」
その一言で、理解した。
来た。
今回の共同検証は、
前回と同じ三拠点。
A・B・C。
射程は重なり、
死角はないはずだった。
配置はこうだ。
[ 拠点B ]
▲
│
│
[ 拠点A ]───[ 拠点C ]
互いが、互いを“見ている”。
だから今まで、
敵は近づけなかった。
――見えている限りは。
「対象、確認」
《オーバーサイト》の一人が言う。
だが、
続きがない。
「……いや、違う」
「“確認できない”」
敵は、そこにいる。
魔力反応はある。
移動ログもある。
だが――
姿が見えない。
「不可視?」
「違う」
俺は即座に否定した。
「見えないんじゃない」
「見せてない」
次の瞬間。
拠点C側の射線が、途切れた。
「射線、遮断!」
「なに!?」
魔力スクリーン。
煙。
いや――
空間が、歪んでいる。
視界そのものが、
捻じ曲げられている。
「視界干渉型……!」
初遭遇だ。
ネットワークの、天敵。
敵が動く。
今までなら、
どこかの拠点が反応する。
だが今回は――
誰も気づかない。
拠点A。
拠点B。
互いに、
相手が見えていない。
[ 拠点B ]
▲
│ × 視界遮断
│
[ 拠点A ]───[ 拠点C ]
×
ノードはある。
だが、
線が切れている。
「……来る!」
気づいた時には、遅い。
敵が、
拠点Bの警戒ラインを突破した。
距離、十。
「撃つ!」
「待て!」
間に合わない。
爆発。
だが、
浅い。
敵は、止まらない。
「撤退!」
俺は叫んだ。
「全員、拠点に戻れ!」
逃げる。
これは、敗北じゃない。
実験の失敗だ。
拠点Bを封鎖。
通路を潰す。
ネットワークは、
完全に崩れた。
静寂。
安全圏。
全員、無事。
だが――
空気は重い。
「……初めてだな」
誰かが言う。
「拠点が、
意味を失ったの」
「違う」
俺は、端末を操作しながら答える。
「意味があったから、
壊された」
「相手は、
視界を理解している」
そして、
対策してきた。
端末に、
赤いマーカーを付ける。
《敵特性》
・視界干渉
・射線分断
・ネットワーク無効化
「……ドラゴン戦の前哨戦だな」
誰も否定しない。
《オーバーサイト》代表が、
静かに言った。
「死角がゼロになると、
逆に危ないって……」
「ああ」
俺は頷く。
「全部見えると、
見えなくなった瞬間に弱い」
これは、
俺の拠点思想の欠陥。
だが――
欠陥は、
直せる。
地下で、
新しい図を描き始める。
今度は、
線だけじゃない。
[ 拠点A ]───[ 拠点B ]
│ \ │
│ \ │
│ \ │
[ 拠点C ]───[ 拠点D ]
冗長化。
重層化。
一つ切られても、
全体は死なない。
「……次は」
俺は、静かに言う。
「見えなくても、
分かる構造を作る」
ドラゴンは、
空を歪める。
なら――
拠点は、
空間の外側に立つ。
ネットワークは、
初めて崩れた。
だがそれは、
終わりじゃない。
進化の合図だ。
(第10話・了)




