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第1話 誰にも見えない階層で

ダンジョンの地下は、静かだ。


少なくとも俺にとっては、そうだった。


人類が四十五階層で足踏みしているこのダンジョンの、

そのさらに下――五十階層の一角で、

俺は今日も一人、壁の点検をしている。


コンクリートでも、岩でもない。

魔法で生成した、俺だけが知っている配合の壁。


触れると、わずかに温かい。


「……よし」


異常なし。


照明、換気、魔力循環。

すべて正常。


ダンジョンの地下に、

インフラが整った拠点が存在しているなんて、

地上の誰も知らない。


知らなくていい。

というより、知るべきじゃない。


ここは――

俺の秘密基地だからだ。


ダンジョンが出現したのは、十年前。


同時に「魔法」という概念が、

この世界に唐突に実装された。


人はダンジョンに入ると、

一人ひとつだけ、固有魔法を得る。


炎を操る者。

雷を落とす者。

身体能力が跳ね上がる者。


そして俺が得たのは――


拠点構築。


地下に、構造物を作れるだけの魔法だった。


初めて知った時は、正直、外れだと思った。


派手さはない。

戦えない。

英雄になれる能力でもない。


でも、だからこそ。


だからこそ俺は、

この魔法を気に入った。


ダンジョンの床は、基本的に踏まない。


それが探索者の常識だ。


圧力感知、魔力反応、即死トラップ。

床は「罠」か「無」しかない。


だから誰も、

床の下を見ようとしない。


俺はそこに作った。


壁と同化する出入口。

視認できない換気孔。

魔力反応を誤魔化す構造。


誰にも見せない前提で、

誰にも辿り着けない場所に。


拠点は一つじゃない。


五十階層までの、

あらゆる重要ポイントに、

同じ思想で構築した地下拠点がある。


半分はロックをかけたまま。


まだ、完成じゃないからだ。


俺は攻略をしない。


ボスを倒すつもりもない。


探索範囲と拠点を増やすだけ。


それだけでいい。


いつか――

誰にも到達できなかった深さまで行って、

全部を完成させてから。


その時に、

俺の意思で明かす。


それが理想だった。


完璧なタイミングで。

完璧な形で。


少しだけ、かっこよく。


「……」


端末に、警告表示が浮かんだ。


魔力反応。

生体反応、複数。


五十階層。


しかも、進行ルートが――

俺の拠点に近い。


「は?」


思わず声が漏れる。


ありえない。


ここまで来られる探索者は、

ほとんどいない。


それなのに――


警告が、点滅する。


接近。


俺は、深く息を吸った。


そして、死ぬほど練習した物体生成魔法で銃を生成する。


練習の結果信じられないほど低コストで作れる、

いつもの形。


何千回も練習した、

引き金の感触。


撃つためじゃない。


撃たなくて済むようにするためだ。


「……最悪だ」


誰にも見せる予定はなかった。


こんな形で。

こんな途中で。


まだ、五十階層だぞ。


俺は仮面を被っていない。

地下マスターでもない。


ただの、

秘密基地を作っていただけの大学生だ。


なのに――


俺は立ち上がり、

拠点の扉を解放する。


「……仕方ない」


極限まで、かっこつけるしかない。


この先、

世界がどう転ぶかなんて分からない。


でも一つだけ、決めた。


俺の城は、俺が守る。


たとえ――

世界にバレることになっても。


(第1話・了)

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