あるひとつの恋
ひとつの恋が終わった。
これで何度目だろう。数えるのも嫌になってきた春。恋の始まりのはずの季節が、いつしか終わりの季節に変わっていた。2年弱の恋だった。長いと言えば長いし、短いと言えば短い。そんな、恋だった。彼女は少し寂しがりやで、でもなんだか自我を大切にしているようなひとだ。そんな彼女を振ってしまった。思い返してみると、ぼくらはあまり気が合う方ではなかった。音楽の趣味も違うし、人生の考え方も違う。でも、美味しいものは好きだった。そんな関係。同じ研究室の先輩と後輩。なんとなく、いつしか気になり仲良くなって交際をはじめた。彼女が修士1年、私が学部4年の秋ごろの話である。彼女は私がまともにできた初めての彼氏だということで、おっかなびっくりと関係が進んでいったのを覚えている。一緒に料理もしたし、色々なところを旅行した。はじめは九州、次は伊勢、浜松、東京、下呂と続いた。全部の旅行でたまに喧嘩をすることはあれど、楽しく過ごした思い出がたくさん。だいすきな人との旅行、楽しくないわけがない。ここまで書くと、なぜ別れたのかわからない。でも、ひとつ致命的なことがあった。紡ぐのは時間がかかれど、解けるのは一瞬なのだ。付き合って1年半ほど経った時、彼女が修士2年、私が修士1年の春の話である。卒業の時期。出会いと、そして別れの時期。そんないつもの季節。彼女の家の退去に伴い、2週間ほど私の家での半同棲がスタートした。はじめのほうはずっと一緒にいれて楽しくて幸せで仕方がなかった。しかし、ある日を境に、なんとなく合わないと感じることが多くなった。なんとなく、生活リズムが合わない。なんとなく、生活する上での価値観が合わない。なんとなく、考え方が合わない。はじめは小さなものだったなんとなくは、いつしか大きなものに変わっていった。そして、トドメを刺したのは、社会人と学生という精神的な、そして純粋な距離という物理的な距離である。それまでに大きくなったなんとなく。そして少し寂しがりやな彼女。近くにいた時はすぐ会えるから安心感があった。けれど、遠くにいるとやっぱり寂しい。そんな時、彼女は私にどこか依存してしてしまっていた。彼女が新生活をはじめてすぐ、私は資格試験があり、心の余裕がなかった。受け止めきれないまま、強引に受け止めてしまっていた。どこか無理をしていたのだと思う。資格試験が終わり、少し糸が切れてしまった。そして、少しだけ考える時間ができた。結婚するつもりだったから相手の親御さんにも挨拶をした。でも、このなんとなくを放っておいてはきっとうまくいかない。誰かに相談できればよかった。自分の親にも相談できないのに誰に相談できるというだろう。そうしてひとり、抱え込み、結論を出してしまった。そう、出してしまったのだ。唐突な電話で彼女はとてもびっくりしただろうし、悲しませてしまったと思う。でも、こういうのは早い方が良い。ズルズルと言い訳を重ねて引き伸ばしても良い未来はやってこない。そう決意して、関係を終わらせた。今までで1番良い恋だったのは確かだ。愛には変わらず。それが、ただただ心残り。大好きだった彼女が幸せになってくれたら良いと思えるような、そんな恋だった。
弱くて受け止めきれなくてごめんね。大好きだったよ。楽しい時間をありがとう。でも、ふたりでいてもきっと幸せにはなれないと思った。きみは幸せになってね。またね。さよならよりはまたねがすき。だって、縁があればまたいつか会えるから。