そして纏まる。
「もちろん、この地だけではなく他のサーカス興業を行う国にいる可能性もあります。明日、団長にも他の興業地について尋ねたいとも思っています」
残り二日の展望を続けながら、思考の中では姿も顔もわからないもう一人の攻略対象者を捉える。この地で奴隷を買ったか他の地かどちらの可能性もある。けれど、一人は絶対ここにいる。
第三作目攻略対象者レナードに〝救われた〟第四作目攻略対象者が、この地に。
サーカスに所属していないのなら、この地にまだいる。大人気だった第三作目のキャラクターと絡めた攻略対象者が第四作目にいることはよく覚えている。レナードにいつか会う為にずっと待ち続けていたと語っていた彼が、レナードと出会ったこの地を離れるとは思えない。
第四作目のその攻略対象者の経緯や過去は、…………結局は四作目だったから覚えてないけれど!!けれどレナード絡みはわかる!!
第四作目やりながらレナードに思いを馳せた私はよぉおく覚えている!!レナード流石慕われている!!罪作り!とか一人で大興奮した感想と事実だけが悲しいほどありありと残っている。
レナード絡みで思い出せた第四作目なのに、そのきっかけになってくれた本人を見つけられないのは引っかかる。彼だって助けを必要とした状況である可能性は大いに高いのだから。
むむむっ……と考えれば考えるほど歯痒さで顎に力を込めて顔の筋肉が中心に寄ってしまう。あと三人、あと三人、と呪文のように胸の底で唱える。
いっそあと三人もどうか!と母上にも懇願しようかとも思うけれど、ラルクのルートがはっきり思い出せない以上人数確定はできない。ディオスとクロイみたいにアレスとラルクが二人ワンセットみたいになっていた可能性もある。
よろしくお願いします、と。改めて彼らに礼をして願う。私一人でという道もあるけれど、せっかくこれだけ頼れる人達がいるのだから頼りたい。攻略対象者達の為にも。
「……お、れは問題ありません!人捜しとか役立つかわかりませんけど、絶対お守りはします!!」
沈黙を最初に破ってくれたのは、アーサーだった。
さっきまでの状況整理を飲み込み終えたところのように、ゴクリと喉を鳴らしてから胸を叩いて私に向き直ってくれた。気合いいっぱいに協力の意思を示してくれるアーサーに、アラン隊長カラム隊長、エリック副隊長も少し関心するようにアーサーへ笑みを向けた。護衛でいる彼らに反対されないのはそれだけですごくありがたい。
「ですよね!!?」と、勢いのままアーサーがカラム隊長達にも呼びかければ、彼らも笑って肯定を返してくれた。続けてステイル達も「予定日までなら」という前提で、協力継続に合意を示してくれる。
するとレオンが「僕も」と滑らかな笑みで足を組んだまま今度は挙手をした。
「奴隷市場に関しては、僕も調査したいから都合も良いよ。その人物をジャンヌの記憶と照らし合わせるなら、明日は一緒に回ろうか。ヴァル、君も付き合ってくれるだろう?」
「アァ?ちゃんと直視できんのかクソガキ共は」
ンぐ、と。レオンの提案に続いたヴァルのなにげに的確に思わず口を結ぶ。今までも奴隷の扱いは確かに直視辛かった。
けれど、確かに奴隷市場が一番私は回らないといけないところだ。もし商品棚に並べられていたとしても、私以外じゃ見ても絶対気付けない。その攻略対象者がフリージアの民として売られてなければ、絶対に気付けない。
ステイルが「お前はジャンヌから目を離さなければ良い」と、アーサーに念押しをしてくれた。アーサーも奴隷市場は絶対苦手だろうけれど、ついさっきの宣言を通すと言わんばかりにそこで強く頷いてくれた。
レオンも都合が良いと言ってくれたことは少し驚いたけれど、彼らと一緒ならば私も心強い。私と違って、二人はまだ免疫があるのは確認済みだ。
「じゃあ、俺とカラムは引き続きサーカス団で聞き込みですかね。もう堂々と調査に集中できますし、やっぱ顔見知りの方が団員も話しやすいと思います」
「僕も一緒にお願いします。団長と話す約束もありますし興業地についての確認もちょうど良いかと。……お二人の聞き込みも含めると別に一応僕へ護衛も欲しいですね」
「ではローランドを付けるのはいかがでしょう。姿を消す特殊能力で、フィリップ様の護衛につく分は問題無いかと」
つい数時間前に団長に熱烈勧誘されたばかりのアラン隊長が自分から一番きついだろう場所に名乗り出てくれれば、ステイルも彼らに顔ごと向けた。団長も今はステイルの話を一番聞いてくれるだろうし、確かに適材適所だ。
カラム隊長からの指名に、ローランドが丸い目で一度姿を現してくれた。
ずっと姿を消して主に私に付いてくれていたローランドだけど、もともと母上に命じられたのは私達の行動監視だ。私とステイルが別れるなら、そのどちらかに付いていれば問題もないだろう。アーサーは私と一緒で、アラン隊長とカラム隊長と別でステイルの護衛に付くなら、サーカスに顔見知りじゃ無い騎士は見えないのが一番良い。
順々に明日の調査を割り振れてくれる彼らに、セドリックも続くように小さく挙手した。「ならば……」と、周囲をぐるりと見回しながらベッドから前のめりになる。
「俺はまた貧困街に探りをいれてみよう。もしかしたら奴隷から逃げ出した者が匿われているかもしれん。現時点では奴らもこちらの条件を守っている分、調査の余地は残っている」
「護衛はどうする?また僕は自分の護衛をつければ問題ないけれど、ジャンヌはヴァルとアーサー以外にもう一人欲しいよね」
「俺を護衛の数にいれるんじゃねぇ」
でも僕には似たようなものだっただろう?と、嫌そうに顔を顰めたヴァルにレオンが小首を傾けて返す。
確かにレオンと騎士を連れてのヴァルも護衛に近い立場での分配だった。……護衛というには、二人でがっつり酒場に言ったりしてたようだけど。まぁお酒に強いはずの二人だから問題はたぶん無い。
レオンにアネモネの騎士が付くとしても、やっぱり私にももう一人騎士は付いていて欲しいところだ。ここは近衛騎士のどちらか、と考えたところでセドリックが「勿論」と迷わずレオンと私へ視線を順々に向ける。
「ローランド殿が抜けた分もあるだろう。ジャンヌにはジャンヌの護衛を二名、ハリソン殿とエリック殿が付くべきかと。俺はジェイル殿とマート殿が居てくれれば不安もない」
「異議なし。よろしくお願いしますエリックさんハリソンさん」
セドリックの提案に、間髪無しでステイルが早口で声を張った。
まさかの騎士三人今度は堂々と付けてもらうことになってしまった。今まではローランドが姿を消していたり、ハリソン副隊長が遠目で見張ってくれていたけれど、今度は騎士全員一緒に歩いての集団行動だ。ものすごく心強いけれど、アネモネ騎士二名とヴァルもいるのになんだか申し訳なくなる。
はい、承知致しました、と。近衛騎士二人からも合意が返される。…………と、そこで舌打ちが聞こえた。
視線を動かしたらヴァルが見事に鋭い眼光を一直線に向けていた。ハリソン副隊長にだ。そうだここ混ぜるな危険!!!
むしろ今まで部屋でよく大人しく共存してくれたなと今更のように思う。ハリソン副隊長は全く視界にも入れないように直立不動だけど、ここはハリソン副隊長の為にも彼にはセドリックの護衛を任せるべきだろうか。いやそれ以前にヴァルだ。
「ヴァ、ヴァル……?あの、貴方は別行動でも大丈夫ですが……どうしますか?」
「あ゛ーーー?んなもん主が決めやがれ」
「予定もないなら一緒に行こうよ。ここの奴隷市場は数も規模もあるから、僕らで手分けして探した方が都合も良い」
騎士嫌いな上にハリソン副隊長には殺されかけたヴァルのことだからてっきり即答で「俺は好きにさせてもらうぜ」とか言うと思ったけれど、まさかの私に丸投げだった。
レオンからも大人数の方がと言われると確かに、と私の方が何故か焦る。実際全員で集団行動ではなく、それこそレオンと騎士達、ヴァル、そして私と近衛騎士でバラバラに行動することもある。あくまで観光ではなく調査だし、協力してくれる人は多い方が助かる。
ハリソン副隊長も以前にヴァルを紹介してから一応我慢はしてくれているし……と思って目を向ければ、ちょうどエリック副隊長が歩みよってくれていた。
「あの、大丈夫でしょうか。セドリック王弟の護衛に付くのも可能かと……」
「問題無い」
遠慮気味に確認してくれるエリック副隊長に、ハリソン副隊長もハリソン副隊長で即答だった。
エリック副隊長に目も向けずに口だけを動かしての返事に、本当に問題無いのか心配になる。さっきまで私の方を見てくれた彼が今はステイルに目を向けたままだもの。これってヴァルは視界に入れたくないという意思表示じゃないだろうか。
犬猿の仲なのは間違いない二人なのに、自分がそこでわざわざ引くのは気に食わないらしい。…………なんか野良猫のテリトリー争いを思い出してしまう。
それでもひとまず明日の打合せがついたところで、ステイルが「では」と腰を上げた。
明日の時間を調整し、今までより二時間余裕を持った時間に合流を提案される。私もこれには賛成だ。私自身が疲れが溜まっているのもあるけれど、…………一番休むべき騎士の方々を思うと一区切りついた今夜くらいはがっつり睡眠を取って欲しい。
とくにアーサーとアラン隊長、カラム隊長はサーカスの公演も乗り越えた後だ。
レオン、セドリックからも問題なしの合意を受け、私達はまた明日ここに集合することを決めた。
最初にレオンとヴァルを護衛のアネモネ騎士と一緒に、彼らの宿へ瞬間移動させる。ヴァルはこのまま宿で寝ると言い出したけど、レオンが「ここにはお酒ないよ?」と言ったら嫌々な顔で引き続きレオンの宿にお邪魔することに決めた。…………二人にもちゃんと寝て欲しいのだけど。
また明日と彼らを見送って、最後に私達もステイルの特殊能力で瞬間移動する。母上達の待つ、王族用の宿へ。
三日ぶりの、ちゃんとした睡眠だ。




